『ストームブリンガー』リプレイ 「ヴェルヴェット・サークル」
アリオッチ神、わたしがなりたいのは、御身かわれ自身かということを問うておられるのなら、わたしはやはり自分自身でありたい。永遠の<混沌>は永遠の<法>同様に、あるいはそのほかの恒久なもの同様に、退屈なものにちがいなかろう。ある意味での死だ。わたしはこの多元宇宙にいつくしむものが、御身より多くあるぞ、魔神殿。わたしはまだ生きている。私はまだ生者のうちにある。
――マイクル・ムアコック『薔薇の復讐』
こうして運命は、<法>がこの世を支配するための殉教者にエルリックをしたてるわけだ、友も敵もひとしなみに殺して、魂をすすって、必要な力を与えてくれる剣を配して。そしてわたしに悪と<混沌>を倒せとて、悪と<混沌>に縛りつける――だが、わたしはそうやすやすと言いなりになる頓馬にはならぬし、嬉々として犠牲になるつもりもないぞ。そうとも、わたしはいまもってメルニボネのエルリックなのだ。
――マイクル・ムアコック『ストームブリンガー』
■『ストームブリンガー』とは?
マイクル・ムアコックというイギリス出身の幻想作家がいます。簡潔にして流麗な文体を持つ名文家で、キリストを題材にした『この人を見よ』でネビュラ賞、マーヴィン・ピークへ捧げられた『グローリアーナ』で世界幻想文学大賞受賞と、小説家としても優れた才能を発揮していますが、『ニュー・ワールズ』という先鋭的なSF雑誌の編集長を務めたり、『ホークウィンド』というロックバンドでのヴォーカリストとしての経歴も持つ多芸多才な人物です。
そして『ストームブリンガー』とは、彼が手がけたファンタジー小説シリーズ「エルリック・サーガ」(邦訳は早川文庫。現行版では「永遠の戦士エルリック」シリーズ)をもとにしたTRPGシステムのことを意味します。
注意していただきたいのが、原作付きのTRPGだからといって、原作のキャラクターに成り代わって原作を追体験するゲームではない、ということです。
もちろん、そのような遊び方もできますが、あくまで原作の世界観を体験するのが一般的なプレイスタイルであるといってよいでしょう。
同じく原作付きのTRPGである『指輪物語ロールプレイング』でもそうですが、原作のキャラを借りて同じようなストーリーを追体験するよりも、世界観だけを利用して、原作の要素は演出として利用した方が、プレイしやすいし、いたずらに物語が安っぽくなるのを避けることができるのですね。
原作の「エルリック・サーガ」とは、運命に呪われた白子の公子「エルリック」と、彼が手にしている人の魂を啜る魔剣「ストームブリンガー」が、神々に弄ばれ<法>と<混沌>との間を揺れ動きながら、文字通り世界の運命を巡って闘うという、ヒロイック・ファンタジーの王道を行く物語で、後のファンタジー小説やRPGなどに絶大な影響を与えました。古典とみなされることも多いですが、細々とムアコック自身の手によって続編が書き継がれており、時代の変遷と共に作品世界の思想は常に深められていっています。
ストームブリンガーはエルリックの意志とは無関係に、敵のみならず、エルリックに近しい人間にも襲いかかり、結果として彼は次々と仕事の依頼人や友人・恋人などを手にかけてしまいます。そして、奪われた婚約者を救出しようとする過程で、自らがかつて皇帝として君臨していた祖国メルニボネをも滅ぼしてしまいます。
しかし、生来の虚弱体質であるエルリックは、魔剣が殺した相手から吸い取って分け与えてくれる生命エネルギー無しでは生きていくことができないのです。それゆえに、ストームブリンガーの邪悪さを業として背負い込まざるをえなくなります。
そのうえ、やむをえず接触した<混沌>の魔神アリオッチが、行く先々で陰謀を巡らしているがゆえに、禍根を断ちきろうとするエルリックの行為は、すべからく裏目に出てしまいます。そして、神々の手駒として働くうちに<法>と<混沌>との闘いの帰趨を担うほど重要な存在となったエルリックは、<混沌>から世界を救うために奮戦するものの、最終的には自らの手で世界全体を滅ぼしてしまうのです……。
エントロピーに侵食される世界を敵わないと知りながらも守り抜こうとする、アンチヒーローとしての色彩が強いエルリックですが、単なるハムレット的な悲劇の主人公、というわけでは決してありません。冒険を進めるうちにエルリックは、自らの生きる<新王国>以外にも世界は存在し、それらの均衡を保つために転生を繰り返しながら人知れず奮闘している、「エターナル・チャンピオン(永遠の戦士)」と呼ばれる人たちと知り合い、自分もそのなかの一人として闘い続ける運命にあるということを悟ります。
こうしてエルリックは、<法>と<混沌>との闘争は常に繰り返され、その間にもエントロピーは侵食を続けているけれども、戦い続ければいつか真の意味での自由を獲得し、新たな価値観に基づいた世界を作り上げることができるかもしれない、という、微かな希望の光を見出すのです。
そして、ストームブリンガーによって<新王国>そのものが壊滅させられてもなお、エルリックたちによってもたらされた、来たるべき新たな世界の誕生は、確かな予感として物語全体を覆うに至ります。
なお、エルリックの世界をムアコックの文章にててっとり早く体感したいという方は、旧版では『白い狼の宿命』、現行版では『この世の彼方の海』という文庫本に収録されている、『夢見る都』という短編がお勧めです。独立した物語として楽しめます。
また、ルールシステムそのものの詳細は以下の通りです。
2001年、アメリカはケイオシアム社より刊行。デザイナーは『クトゥルフ神話TRPG』のディヴェロップメントで知られるリン・ウィリス。翻訳は江川晃/グループSNE。
ベーシック・ロールプレイング・システムという技能ルールを中心にした簡素な汎用システムを母体としており、『ルーン・クエスト』、『クトゥルフ神話TRPG』とほぼ同じ感覚でプレイすることができます。
かつて、日本語版がホビージャパンより発売されていましたが、最新の第5版が2006年7月、エンターブレインから出版されました(正式名称は『MICHAEL MOORCOCK’S ストームブリンガー』))。新紀元社の『Role&Roll』誌でもサポートが始まっており、今後ますます、目が離せない展開になっております。
なお、今回のセッションでは、現行版とは異なる第4版のシステムを使用していますが、第5版とシステム上の大きな変更点はないので、問題なく楽しめることと思います。
さて、『ストームブリンガー』のシステム的な特徴を思いつくままに書き出して見ますと、こんな感じでしょうか。
・ 原作モノにつきのものの「世界の狭さ」を感じさせない、骨太のデザイン・コンセプト
・ 『ベーシック・ロールプレイング・システム』ならではの、簡潔明快な判定システム(技能システム中心のD100下方ロール)
・ 原作に出てくる恰好いいキャラクター・クリーチャーやデーモンの設定が充実
・ 緻密でシビアな戦闘システム
・ デーモンの召還を中心とした独自の魔法システム
・ 社会構造を反映させたリアルなキャラクターメイキング
・ 初期状態で旧版『ストームブリンガー』よりも数値的に強力なキャラクターを使用できること
・ <法>と<天秤>と<混沌>の間で価値観が揺れ動くというシチュエーションを再現した<アリージャンス(忠誠)>のルール
・ イメージ豊かな<新王国>という背景世界
なかでも特筆すべきは、背景世界の<新王国>です。原作で描かれるファンタジーとしての豊穣なイメージを、うまく社会史的に読み替えてRPGの文法に当てはめることに成功しており、非常に魅力的なものに仕上がっていると思います。
説明としてはこれくらいで充分であるでしょう。
実際、今回のリプレイではシステム経験者はゼロでしたし、原作を読んでいるのも僕とエイワーのプレイヤーだけでしたので、お世辞にも予備知識が豊富とは言えない状態だったりしました。海外RPGを楽しむにあたり最も重要なのは、世界観の正しい理解であるので、この点、経験者がいない、という事実はかなりネックになってしまいます。
ですが、プレイしてみた結果、楽しいセッションになったということは間違いありません。この楽しさを、皆様ともぜひ共有したいと思います。
専門的な言葉は脚注で解説させていただきましたので、ごゆっくりリプレイをお楽しみ下さい!
■集いし伏龍たち
GM「それでは『ストームブリンガー』のセッションを始めたいと思います」
一同「(拍手)」
GM「まずはN君からキャラ説明をお願いします」
N(サダフレモ)「えーと、STR(筋力)が1でAPP(外見)が1[1]の魔法使いですね。名前はサダフレモ。昔はSTRが12でAPPは17もある美青年だったんですが…ちょっと、魔力を高めようと<混沌>の力を追い求めたがために、右の腕が飛んで、左手も動きが悪くなってしまいました」
GM「ということは片腕なの?」
サダフレモ「STRが1ということは片腕くらいだろう、と思ったので。APPが1なのはそれに加えて、魔法の代償として顔が思いっきり歪んだり火傷を負ったりしたみたいになっている、というわけだからです。精霊ノームが封印された呪符を持っており、いざとなったら解放して言うことを聞かせることができます。容貌については、『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』で言うならば<人間に間違われるかもしれない>[2]とかそういうレベル」
GM「ノスフェラトゥ[3]?」
N(サダフレモ)「ええ。でもまあ、POW(精神力)は30あるので魔法をひたすら撃てます。あとは逃げるのだけは上手くていままで生きてこられた、と。<回避>技能が260もあるので」
GM「すげぇ設定だな。ほんとうはSTRもAPPも3くらいはないとダメだと思うのだけれども、熱意の方を尊重してOKを出そう。でもそんなヤバいキャラ、普段はどうやって街を歩いてるの?」
サダフレモ「普段はですね…。薬師なんで森の奥に引っ込んでるんです。ポーションを時たま売りながら、地道に魔法の研究をしてます」
GM「なるほど。それでもって、<魔術師の島>の生き残り[4]というわけですか。ふむふむ。よくわかりました。それではKBくんお願いします」
KB(エイワー)「名前はエイワー。西部の<ジャーコル>という大陸から来た遊牧民系です。そうですね、特徴で<顔毛>というのがありましたが[5]これは、『ナマズ髭』でいきましょう。ラーメンマンではないアルよ」
一同「(静寂の後に、乾いた笑い)」
エイワー「(相手にせず)役割的には、ダメージ・ディーラーというか、つまりは盾ですね。頑丈さには自信があるのでガンガン前に出してやってください。大体は馬に乗って移動しております。放浪の旅の最中ですな。そんな感じです」
GM「よくわかりました。Yくんどうぞ」
Y(ナトゥリム)「名前は、ナトゥリム・ヴェラル。今回の舞台である<イルマー>出身の下級貴族でしたが、家が没落! 現在は冒険者まがいのことをして糊口をしのいでおりますが、ご多分に漏れずお家復興という目標を掲げており、自分でナイトを自称しております。ふふふ」
GM「ナイトって、騎士?」
ナトゥリム「はい。で、貴族としての誇りを忘れまいと服を安物の宝石で着飾り…」
一同「(爆笑)」
ナトゥリム「剣と盾を持ってナイトらしく闘う…そんな人間であろうと心がけております(畏まる)」
GM「それでは、次お願いします」
セトー(KG)「名前はセトー。28歳の盗賊です。まあ盗賊と言うよりは警察機構の手先に近いです。外見(APP)は12と平均的なので目立ったところもなく、普段は物乞いのようなことをして暮らしていますが実はポリ公の手先です。手先と言うよりは情報屋に近いのかな。もしくは、頼まれてターゲットにちょっとだけ痛い目を見せたり。なので、こいつは<混沌>ではなく<法>の方にポイントが入っております[6]」
GM「そして私がGMO田です。邦訳が出た海外RPGはだいたい遊んだつもりだったのですが、『ストームブリンガー』は今回が初めてです。システム運用に不慣れな部分があってご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いいたします。なお、今回はプレイヤーフレンドリーに行きたいと思ってます。よってルール解釈は杓子定規に行うのではなく柔軟に行かせていただくつもりですので、積極的な発言&行動を頼みますね」
■プレイヤー・キャラクターのデータ
ナトゥリム・ヴェラル:プレイヤー・Y
【能力値】
STR13 CON14 SIZ14 INT12 POW18 DEX16 APP10 ダメージボーナス+1D4 耐久力14 魔力ポイント18
【アリージャンス】
混沌12 天秤15 法0
【技能】(初期値そのままのものは除く)
アイデア60 ラック90 デクスタリティ80 カリスマ50
言いくるめ35 隠蔽45 鑑定35 交渉術50 自国語80 乗馬70 捜索40 ハイスピーチ60 読心術45 変装35 雄弁20
【魔術】
地獄の火槍 地獄の鎧 チャードロスの心魂 治癒 魔法消去 闇夜 妖魔の耳 月光 地獄の刃 監視
【戦闘技能&装備】
ブロードソード200(1D8+1D4)
新王国式プレート(1D10+2) ラージシールド100(耐久力25)
エイワー:プレイヤー・KB
【能力値】
STR18 CON15 SIZ14 INT12 POW12 DEX15 APP8 ダメージボーナス+1D6 耐久力15 魔力ポイント12
【アリージャンス】
混沌0 天秤6 法6
【技能】(初期値そのままのものは除く)
アイデア60 ラック60 デクスタリティ75 カリスマ40
隠密行動87 回避50 聞き耳45 ジャンプ45 乗馬102 水泳45 捜索40 追跡41 読心術35 投げ45
【装備】
シーアックス216(2D6+1+1D6)
ハーフプレート(1D8+2) ラージシールド106(耐久力25)
セトー:プレイヤー・KG
【能力値】
STR14 CON14 SIZ14 INT13 POW12 DEX14 APP12 ダメージボーナス+1D4 耐久力14 魔力ポイント12
【アリージャンス】
混沌0 天秤5 法8
【技能】(初期値そのままのものは除く)
アイデア65 ラック60 デクスタリティ70 カリスマ60
隠蔽45 隠密行動80 回避83 聞き耳75 交渉術43 自国語85 鍵開け75 潜伏40 捜索78 読心術35 博物知識45 変装35 雄弁25
【装備】
ナイフ200(1D4+2+1D6) 内訳は隠しナイフ×4、ラージナイフ×2、ソードブレイカー
レザー&リング(1D6+1)
サダフレモ:プレイヤー・N
【能力値】
STR1 CON13 SIZ16 INT15 POW30 DEX16 APP1 ダメージボーナス−1D4 耐久力15 魔力ポイント30
【アリージャンス】
混沌10 天秤0 法15
【技能】(初期値そのままのものは除く)
アイデア60 ラック150 デクスタリティ80 カリスマ5
言いくるめ40 医術41 回避260 鑑定43 技工術25 航海術30 自国語101 嗅覚/味覚51 鍵開け25 乗馬55 操船35 他国語10 読心術101 トラップ25 筆記術10 変装35 ポーション101
【魔術】
混乱 治癒 ハイオンハーンの角 モーム 妖魔召喚 精霊召喚 魔力の火鉢 魔法消去 似姿 混沌の呪い 存在の鎖
【装備】
締め付け45
精霊(ノーム)が閉じ込められた呪符(ワンド)
■予兆か、啓示か
ある冬の日に、洞穴のなかへ降りていって雄獅子を打ち殺した。
――サムエル記
GM「それでは皆様の自己紹介が終わったところで、セッションの説明をさせていただきます。今回は、オフィシャルの『ヴェルヴェット・サークル』というシナリオをですね、使いたいと思います。92年、ホビージャパンより翻訳刊行。作者は『トンネルズ&トロールズ(T&T)』のシナリオ『魔術師の島』(教養文庫)とか、T&T小説『ドラゴンの巣を越えて』(「ウォーロック」誌所収)、汎用サプリメント『RPGシティブック』(教養文庫)などで知られるラリー・ディティリオ[7]。
で、このシナリオ、もともとはキャンペーンシナリオなんですけれども、単発セッション用にアレンジして使います。エキゾティックというか、雰囲気がいい話なんでね。でもバランスは…正直、ガチンコな空気が漂っているので、全滅しても恨まないでください(笑)」
一同「(なぜか無反応)」
GM「(気にせず)それで、あなた方は、<新大陸>の北側にある<イルミオラ>という国の首都、<イルマー>にいます。<イルミオラ>というのは、平原が広がる北の大陸の一部にあるのですけれども、その辺りにある都市国家の中では、かなり強い支配力を有しています。気候はおおむね穏やかですが、東にある<溜息の砂漠>に近付けばそれだけ荒れてくると。北部では土地は乾燥してますが、南部と沿岸部では降水量が多く、農業とかもできます。南部では朝方に霧がかかります。また、<太古の森>という、この世界が出来たときからあると言われている森を起点とした木立ちが、国のあちこちに点在していますね。国を構成する各都市国家から選出された元老院議員の評議会によって政治が行われていますが、<バクシャーン>という国がもっともお金のある国です。それで、各都市のなかで最も血筋の旧い家系が、元老院議院となって、保守的にですが、政治を取り仕切っているというわけですね。内戦とかはほとんどありません。
<イルミオラ>自体は、『エルリック・サーガ』の世界つまり<新世界>にある大陸のなかでも比較的若い国ですね。人々の性格は精力的でわりと大らかです。しかし、国のかなりの地域はまだ未開であり、洗練された文化を欠いていると言ってしまっていいでしょう。なお、<イルミオラ>人は標準的な体格で、色白の肌をしており、明るい茶色の頭髪を持っています」
一同「ふむふむ」
GM「では、早速ですが導入を始めます。導入は1人1人個別に行うので、悪いんですが、出番のない人は外で待ってて下さい」
セトー「怖ぇなー(笑)!」
GM「おおっと、その前に決めときたいんですけど、利害関係が一致したからかどうなのかはわかりませんが、皆様は協力して冒険をしたことがあるということにして下さい」
セトー「つまりこの4人は知り合いというわけ?」
GM「知り合いです。もっとも、このセッションで一緒に行動するかどうかはお好きに決めて下さい」
(エイワーが入ってくる)
GM「冒険の日々。疲れ果てて眠りについたある夜、あなたは夢を見ます。目を瞑って下さい」
(数枚のカードを突きつける)
GM「そして、ここから一枚を引いて下さい」
(エイワーはカードを引く)
GM「それでは、カードの内容を読み上げますね[8]。君は、以下の繰り返し現れる夢を見ています。君は、扉にあらざる扉を開けて進みます。周りからは歳月の臭いがします。そこにある光は奇妙なものでどんよりとしており、ピンクがかっています。光は、君の目の前の台座にある一冊の書物から射しています。君は、この書物を手に入れなくては、と思って前へ進みますが、ゴロゴロという唸り声に続いて、背筋が凍るような笑い声を耳にします。君は辺りを見回しますが、何も目にすることはありません。君は書物の方へと引き返しますが、そこに辿り着くことはできません。書物の前の空中で、金の八角形が廻っているからです。八角形の回転はだんだんと速く、さらに速くなっていきます。唸り声も、さらにうるさく、数も多くなってきます。……一つの影が君に飛びかかってくる……犬だ! いや、犬ではない、怪物だ! その顎は大きく開かれ、君の脳に喰らいつく! 君は儀式めいた詠唱の声を聞きます。『ヴェルヴェット・サークル、輝く夜明け』、と。顎がゆっくりと閉じていく。そこで君は心臓をドキドキさせながら眼を醒まします」
エイワー「はあ、はあ、はあ(動悸、息切れ)」
GM「それでは、以上です」
(エイワーは退出。替わって入ってきたのはセトー)
セトー「どんと来いやー!」
GM「あなたは、<イルミオラ>周辺で、日々暮らしていくためにですね、色々とチマチマとした冒険をしているわけなのですけれども、そうしたある日、突然夢を見ます」
セトー「夢?」
GM「Sure.この世界では、夢という物は必ずしも非合理的なものではなく、何か人生にとっての重大事を示唆していたり、人が進むべき指針のようなものであったりする、と言われているんですね。それでは眼を瞑って下さい」
セトー「瞑ったよー」
GM「それではこのなかの紙を一枚引いて下さい」
セトー「眼を瞑ったままでは引けないよー」
GM「がんばって探り当ててください(笑) 引きましたね。それでは、読み上げます。君は、以下の繰り返し現れる夢を見ています。ワイヴァーンの印がエッチングされた華麗な銀の鎧を着た人物が、渦を巻いている霧から出てきて、君のもとへと歩いてきます。暗い色をした銀の瞳が、同じくワイヴァーンの形をした面貌の下ろされた兜を通して、君をじっと見つめています。彼は彼方を指差し、君はそちらを向きます。すると、虚空で金の八角形が廻っています。八角形は次第に速度を増しながら廻っています。その光は君の眼をほとんど眩ましてしまいますが、回転する霧のなかにぼんやりとしたこの世のものとは思えない形を見分けることができます。君は遠くに、悪魔じみた笑い声を聞きます。すると八角形は突然砕け散り、君は自分がとある地下道にいることを気が付きます。正面は巨大な金属の厚い板です。君が見つめていると、その板は突然倒れてきます。金属の板に押し潰される直前、君は何者かが呼びかけてくるのを耳にします。『ヴェルヴェット・サークル、輝く夜明け』と。そこで君は眼を醒まします」
セトー「(夢の内容を反芻している模様)」
GM「それでは、次の人を呼んできてくださいな」
(セトー退室。サダフレモが入ってくる)
GM「あなたは、ほかの三人とうまく手を結んで、まあ利用してでもいいけど(笑)日々のパンを稼いでいたわけですが…日頃は何やっているの?」
サダフレモ「魔法の研究というところでしょうか」
GM「では、怪しげな研究に精を出しているとですね、突然、あなたは夢を見ます。我々の世界とは異なり、夢が単に曖昧で支離滅裂なものではないということは、魔術を修めるあなたはよく知っています」
(夢の内容を決めるために、カードを引く)
GM「君は、以下の繰り返し現れる夢を見ています。君は通路を歩いて下っています。暗い場所で、例えるならば天然の洞窟のような通路です。行く手からは低い、獣の唸り声のようなものが聞こえてきます。『翡翠虎だ!』と、隣にいる何者かが告げます。君は振り向き、身体が真ん中から断ち切られ、真っ二つになった男を眼にします。彼はにやりと笑うと、消え去ります。それから君は、前にいる『翡翠虎』に向き直ります。虎の口は開かれ、そのなかには黄金の八角形が見えます。八角形は回転していますが、速度はどんどん増して行きます。回転する八角形から声が呼びかけます。『ヴェルヴェット・サークル、輝く夜明け』。すると、八角形や翡翠虎は消え失せ、一人の女が現れます。いや、女ではない。デーモンです! デーモンは君を捕まえようとしますが、そのとき君は悟ります。真っ二つの男を君のもとへと留めておけば、デーモンを遠ざけておくことができるだろう、と。そこで君は眼を醒まします」
サダフレモ「これは強烈ですね。相当飲まないとやってられませんわ」
(サダフレモ退室。替わりにナトゥリムが入ってくる)
ナトゥリム「なんだか面接みたいですね(笑)」
GM「言ってくれるな(笑)。で、お家復興のために良い働きを見せてくれている君ですが、ある日、まるで啓示のごとき夢を見ます。<新世界>では、夢というのは大いなる存在が語りかけてきたり、人生の指針を示してくれたりとか、そうしたものにも使われるということはよく知られています」
ナトゥリム「ほほう」
(他のプレイヤーたちと同様に、カードを引く)
GM「君は、以下の繰り返し現れる夢を見ているところです。君は、暑くて乾いた場所にいます。君は、波打つ砂丘の向こうを見つめています。遠くには色とりどりの天幕に囲まれた池があります。木製の鎧を着込んだ大勢の蛮人たちが集まっています。皆、弓で武装しています。鷹が一羽、周りを飛びながら叫び声を上げます。見上げると、太陽が金色の八角形になっています。八角形は回転しています。スピードがだんだん速くなってきています。君の知らない声が警告します。『気をつけろ!』弓が唸り、矢が空気を切り裂いて音を立てます。『真鍮の犬が、鍵を持っている!』声が叫びたてます。『ヴェルヴェット・サークル、輝く夜明け』と、遥か彼方で低くて太い声が告げます。君はそうして、震えながら眼を醒まします。それでは、これで全員終ったんで、呼んできて下さい」
■「輝く夜明け」はどこにある?
(全員が部屋に戻ってきて、着席する)
GM「というわけで導入は終わりですね。皆様それぞれ、何か行動のためのきっかけのようなものが与えられたと思うのですが、それをどう使うかはご自由にどうぞ。自己判断でお願いします。それで、ナトゥリム。君はいま<イルミオラ>にいます。屋敷はやさぐれパーティのねぐらにされていて、家具には赤紙がいっぱい貼られています(笑)」
ナトゥリム「それでは、赤紙の貼ってあるベッドの上で飛び起き、『何なんだ、今の夢は…?』」
GM「『どうしたのお兄様、顔が真っ青よ』と、16歳のサイモーンという女性が声をかけてきます。彼女も没落してから、安い賃金で扱き使われており、よく見るとだいぶ窶れています。時間はまだ明け方です」
ナトゥリム「おお妹よ、起きていたのか」
サイモーン「どうしたんですか、また借金取りがやってきたのですか」
一同「(爆笑)」
ナトゥリム「いやぁまあ、借金取りではないのだが、少し夢見が悪くてな」
サイモーン「夢見がって…お兄様、いつも私に言ってらしたじゃないですか。『俺が見る夢は、ヴェラル家がふたたび過去の栄光を取り戻すことだけだ。』って」
ナトゥリム「そうだったな(笑)では昨日の夢は、ヴェラル家に復興の機会が訪れるだろうという、神の啓示だったのかもしれぬ!」
サイモーン「(興奮して)そうだわ、お兄様、そうに違いないわ!」
ナトゥリム「(2人でうかれているが、思い出したように呟く)しかし私には、さっぱり内容がわからん。なにせ、イメージの洪水のごとき夢であったから」
サイモーン「大丈夫ですわ。落ち着いて、ゆっくりと思い出してください」
GM「そうしてサイモーンはあなたの手をしっかりと握ります。するとあなたは気がつきました。前はあんなに清らかで滑らかだった彼女の手が、あわれ無残にもひび割れ、あかぎれなどがいっぱいあるということを…」
ナトゥリム「おお、可愛そうな妹よ!(妹の肩を抱く)」
サイモーン「(ふりほどいて)私のことは心配なさらないで。それより、夢は…?」
ナトゥリム「まあ、意味不明ではあるのだが…かくかくしかじかで、『真鍮の犬』やら『ヴェルヴェット・サークル』やら」
サイモーン「『ヴェルヴェット・サークル』と言えば、あそこじゃありませんか」
ナトゥリム「!?」
GM「というわけで、<アイデア>ロールを行ってください」
ナトゥリム「成功率は60%なので(ころころ)、D100の出目は30。成功です[9]」
GM「ではあなたは思い出しましたが、<イルマー>のなかでも―この街は<法>の勢力が根強いのであまりいかがわしい場所はないのですけれども―やさぐれた日陰者たちが集まってくる場所があって、そこは危険だと言うことで一般市民からは名を出すことも忌み嫌われています。ってなわけでその一角だけ、ベルリンの壁みたいなものに囲まれて隔離されているんですが、そこの正式名称が、確か、『ヴェルヴェット・サークル』といったのではないだろうか、ということに思い当たりました」
ナトゥリム「『ヴェルヴェット・サークル』? まさか、あの一角のことなのか? では『輝く夜明け』というのは…」
GM「そいでもって、いかにあなたの妹が貧しくとも、『ヴェルヴェット・サークル』へ売られることはないだろう、と考えてください。<法>の方々は厳格ですが、ある意味人道的にフェアではあるのです」
ナトゥリム「新宿歌舞伎町みたいな感じ?」
GM「歌舞伎町はもう綺麗になってしまいましたからね(笑)歌舞伎町と香港の怪しいところを足して、1.5くらいで割ったというところではないでしょうか」
ナトゥリム「あまり近づきたくない場所ではあるが、とりあえず行ってみようかな」
サイモーン「危険なことはなさらないで!」
ナトゥリム「なぁに心配するな。お前も私の腕は知っているだろう」
サイモーン「ええ。ですが、今はじっくりと力を蓄えるべき時」
ナトゥリム「そうだが…しかし、気になる。この際、ヤツらを巻き込んでしまおう」
サイモーン「あの品のない方々のことですか?」
ナトゥリム「そうだが、まあ確かにならず者のような連中ではあるが、腕が立たないわけではないからな」
サイモーン「お兄様がそう言われるのであれば、そうなのでしょう」
ナトゥリム「利用できるものはすべて利用するのだ! 生きるうえで当然のこと」
サイモーン「その通りですわ!」
ナトゥリム「お前も覚えておくのだぞ」
GM「やたら盛り上がっているところ悪いんだけれども、どうやって他の連中を呼ぶのですか? 溜まり場は一応、ここになってますが(笑)」
エイワー「タイミングよく、皆で押しかけてこようか(笑)」
GM「まあ、考えておいてください。それではセトーにシーンを切り替えます」
セトー「俺は頼まれて、物乞いを装いつつあやしいヤツを監視している」
GM「それでは、ヴェルヴェット・サークルに出入りする人間を監視すべし、という仕事の依頼が来ました」
セトー「早いのぅ。まあ不思議な夢も見たことだし引き受けますかな」
GM「では、<アイデア>ロールを振ってください」
セトー「65%あるから余裕だな。(ころころ)成功」
GM「それでは、『輝く夜明け』亭という宿屋が、『ヴェルヴェット・サークル』のなかにあることを思い出します」
セトー「じゃああれは、とても具体的な夢だったんだな」
GM「もう一度<アイデア>を」
セトー「今度は失敗」
GM「何か引っかかるものがあるが、思い出せません」
セトー「『輝く夜明け』亭がどれだけ危険なところかがわからんなあ。一人で行くのは危ないか。何かの機会でヤツらと会うことがあったら聞いてみよう」
■日常生活の冒険
GM「では、場面を切り替えましょう。エイワーです」
エイワー「はい。流れ者なのでこの街のことにも詳しいわけではないですからねぇ、適当な宿に泊まっていながら、『ヴェルヴェット・サークル』、『ヴェルヴェット・サークル』と、なんのことやら呟いてます」
GM「なるほど。ではあなたの泊まっている宿屋は『灰色詩人亭』というところです。そこで、あなたが休憩していると、『片目のジャ・ソール』と名乗る怪しい男がやってきて…」
片目のジャ・ソール「へへへ旦那、『ヴェルヴェット・サークル』をご存知なのですか」
エイワー「なぜそのことを!」
片目のジャ・ソール「(声を張り上げる)いやね、あそこのことを言っているなんて、旦那も結構、好き者だな、と思っただけですよ!」
エイワー「(笑って)なんのことだね」
片目のジャ・ソール「決まっているじゃないですか。あんなPLAYができるところは他にありませんよ(下卑た笑い)」
エイワー「ポン引きか。ということは、『ヴェルヴェット・サークル』というのは売春宿か何かなのだろう。だとするとあの夢は一体、何を示していたのだろうか? これは調べてみる価値がありそうだな」
片目のジャ・ソール「ブロンズ10枚頂ければ、安全な店に案内できますぜ」
エイワー「(少し考えて)いや遠慮しておこう」
片目のジャ・ソール「(ぶつくさ言いながら、立ち去る)」
エイワー「それでは実際、現地へ行ってみよう。中に入るかどうかは行ってから決める、ということで」
GM「はい、『ヴェルヴェット・サークル』の入り口付近にたどり着きました。それでは<アイデア>でロールをお願いします」
エイワー「成功」
GM「するとですね、巧妙にメイクアップをしてはいるのですけれども、見慣れた顔の浮浪者らしき男が徘徊しているのですね。はい、お気づきでしょうがセトーです」
エイワー「近寄って話しかけましょうか」
セトー「おいおい、こんなところで親しげにしてくれるな。俺に話しかけるなよ。仕事中なんだ。なんの用がある?」
エイワー「お前こそ、なんでこんな物騒なところにいるんだ」
セトー「物騒だからに決まっているじゃないか(苦笑)。俺の仕事のことを話したことはあるだろう。平穏無事なところを見張るのにも意味はあるんだが、今日はこっちに張り付いていろとのお達しなんだ。さあ、わかったら行ってくれ。俺が警察機構の回し者だというところがバレたら拙いんだ。まあ、この街に俺を痛い目に合せられるくらいに腕が立つ奴など、そうそういないと思うがな。それとも何か、仕事中に持ちかけなければならないほど、大事な用でもあるのか?」
エイワー「ん? じゃ、そこの『ヴェルヴェット・サークル』について何か知ってたりするのか?」
セトー「だーかーらー、わからんヤツだなぁ、『ヴェルヴェット・サークル』に犯罪者が逃げ込んだり、逆に中からヤバいのが出てきたりするのを観た場合、パッと衛士に知らせて手を打ってもらうのが俺の仕事ってわけさ。わかったか?」
エイワー「わかりました、わかりました」
セトー「そこにお前みたいなデカくて強そうなヤツがいるとだなあ、俺が物乞いをやっていることが疑われてしまうってわけだ。マッポの手先なんじゃないか、と疑われてしまったら俺の仕事は失敗なんだよ」
エイワー「わかったわかった。じゃあ退散するよ、と金を落として立ち去りましょう」
セトー「ありがとうごぜえますだ、旦那さまぁ」
GM「それではシーンを切って、サダフレモどうぞ」
サダフレモ「どうしても足りない材料があって、街の薬草屋に来ています」
GM「怪しげな『コラットの奇跡商店』という店にやって来ていることにしましょう」
サダフレモ「こっちもだいぶ怪しいですから」
セトー「どういう服装でやってきているんだ? APP(外見)1が?」
サダフレモ「黒いフードに黒いコートに…」
セトー「腰が曲がっているとか、そういうことはないの?」
サダフレモ「腰も曲がっています」
GM「なるほど。それではですね、『コラットの奇跡商店』の主人コラットが声をかけます」
コラット「あんたかい、へへへ、あんたはすぐわかるよ」
サダフレモ「なあ、おっさん、この右腕を治す薬はないかい?」
コラット「どうれ、見せてみろ…おおっと、近寄らないでくれ。俺はまだ死にたくないからな。まだ、<忘却界>[10]行きは御免だよ」
サダフレモ「(気にせず)秋に太古の森に生えていた、これこれこういう薬草はまだ残っていないのか」
コラット「どれ、何に使うんだ。ポーションにか?」
サダフレモ「いやぁ、貴族のお姫さんにこれこれこういう用事でって…詳しくは言えないんだな」
コラット「隠すなんて水臭いじゃないか」
サダフレモ「えー、あの貴族のお姫さんにって、とても人には言えないな(笑)」
コラット「貴族のお姫様? 馬鹿言うな。お前みたいなヤツが貴族のお姫様のところになんて行けるものか」
サダフレモ「それでは、主人にあのおっさんとの馴れ初めを語ります。ああ、あのおっさんって、ナトゥリムのことですけど」
ナトゥリム「まだ29歳なのに…」
コラット「ふむふむふむ、人間、顔じゃないんだなあ」
サダフレモ「わしの取り柄は魔力だよ」
ナトゥリム「ははは」
コラット「わしは気にせんが、そんなことを大っぴらに言いまわっていると、そのうち吊るされちまうぞ」
サダフレモ「おっさんも気を付けなきゃな」
コラット「俺ぁ、吊るされるようなことは何もしとらんからな。<法>を遵守しておるよ」
サダフレモ「はは。じゃあ薬草を譲ってもらえんか(お金を差し出す)」
GM「金を10ブロンズ減らしてください。必要な薬草を3つほど貰い受けました」
サダフレモ「ところで、最近面白そうなことはないか?」
コラット「いやあ、いたって平和だな」
サダフレモ「そうか。じゃあわがノーム君も活躍の場がないなあ」
コラット「んっ!? それは、デーモンか?」
サダフレモ「違う、精霊だよ[11]」
コラット「(ほっと胸をなでおろしながら、畏敬の眼差しで)おおそうか、ちょっと待ってくれ。薬草を一つ返してもらえまいか」
サダフレモ「どうして?」
コラット「いや、な、鮮度が落ちているものを間違って渡してしまっていたみたいで…」
ナトゥリム「ひでぇ(笑)」
サダフレモ「ところで、わしのポーションをここに置いてはくれまいか」
GM「では、<ポーション>技能でロールを行って下さい」
サダフレモ「(ころころ)98です」
ナトゥリム「これは失敗かな?」
GM「どれどれ、サダフレモの<ポーション>技能は101あるので、これでもぎりぎり成功だったりしますね[12]。ペナルティが特にかかってないからね。我ながら甘いのぅ。それでは、コラットは鑑定を(ころころ)」
コラット「このポーションは使い物にならないようだよ」
サダフレモ「なぬっ!?」
ナトゥリム「鑑定に失敗してやがる…」
コラット「こんなものを置くわけにはいかんな」
GM「ではここでシーンをカットかな。ナトゥリムにバトンタッチ」
■「輝く夜明け」を追いかけて
ナトゥリム「意味のはっきりしない夢ではあったが、あいつだったら何か手がかりを知っているやもしれん」
サイモーン「あいつとは?」
ナトゥリム「ほら、あの、お前が言うところの品のないヤツらだよ」
サイモーン「どなたでしたっけ。ちょっと目つきの悪い方と、ちょっと筋肉のある方と…お2人でしたよね?」
サダフレモ「あれっ!? カウントされてない!」
ナトゥリム「ははは。ヤツらはどこにいるんだろうなぁ」
GM「<アイデア>でロールして」
ナトゥリム「(ころころ)失敗!」
GM「見当がつきません。幸い、エイワーの泊まっている宿ならばロールなしでわかりますが」
ナトゥリム「ではそこに行くとしましょう」
GM「『灰色詩人亭』に突きました。宿の主人は台帳を確認します」
主人「今、出かけておられるようですね」
ナトゥリム「どこに行ったかわからんのかね」
主人「それはちょっとお教えできませんなあ」
ナトゥリム「困ったな。だが、わからないものは仕方がない。退散するとするか」
セトー「ヘタレめ!」
GM「ではカットで。エイワーお願いします」
エイワー「セトーのところからしぶしぶ帰りますよ」
GM「すると、ばったりナトゥリムと出会うわけだ」
エイワー「どうしたナトゥリム。顔色が悪いぞ」
ナトゥリム「いやちょっと寝不足でな。ところでサダフレモの居場所を知らないか。ちょっと聞きたいことがあってな」
エイワー「いつも通り、森の奥に引き篭もっていると思うぞ」
ナトゥリム「まったく、そんな辺鄙なところに」
エイワー「私もちょっと聞きたいことがあるので、よかったら一緒に行かないか」
ナトゥリム「まあ、構わんが」
GM「では、自信満々のポーションが貶されて、少し凹み気味なサダフレモのところに、2人のうら若き冒険者たちがやってきたわけです」
サダフレモ「やあ、貴族のお坊ちゃんよぅ、いいポーションがあるんだがよぅ」
エイワー「あまり近づくでないアル」
ナトゥリム「お前のポーションは買わん!」
サダフレモ「じゃあ、惚れ薬でも何でも言ってくれよ。あと幻覚剤もあるよ」
ナトゥリム「(無視して)おおサダフレモ、いつもながら見るに耐えない外見だな。だが見てくれはともかく、お前の知識は役に立たないわけではないからな。ちょっと聞きたいことがあって来たのだよ」
サダフレモ「ほほう」
ナトゥリム「『真鍮の犬』とか『輝く夜明け』とか、まあ『ヴェルヴェット・サークル』はあの一角のことだからいいとして、そこらへんの単語に聞き覚えはないか」
サダフレモ「それはわしの観た予知夢に出てきた単語じゃないか」
ナトゥリム「予知夢?」
GM「では、魔法系の知識でロールを行ってください」
サダフレモ「失敗! 俗世間のことには疎いのだよ」
エイワー「あんたの専門分野じゃんか…」
サダフレモ「何か言ったか?」
ナトゥリム「サダフレモが知らないとなると、魔術的なものではないということか」
サダフレモ「(ぼそっと)『黄金の夜明け団[13]』が関係あるのかな?」
エイワー「ないんじゃない?」
GM「ない」
ナトゥリム「(悩んでいる)」
GM「そこでカット。ではセトーのシーンに移りましょう。一日の仕事が終わり、ようやくあなたは解放されました」
衛士「セトー君、ご苦労。また頼むぞ」
セトー「へい、ではあっしはこれで。では適当に酒でも買って帰り、河原にゴザでも敷いて寝るかのぅ」
GM「<イルマー>の街の治安は悪くないですが、安全だとの保障もできませんよ」
セトー「自分の身を守れるくらいの技量は積んでいるつもりなので」
GM「それでは、あなたが河原乞食をやっているとですね」
セトー「河原乞食、のふりをしているわけね。時々は宿に泊まって身体を洗ったりもしているよ。三日に一回くらいは。じゃないとほんとに乞食と変わらなくなってしまうからな(笑)」
GM「わかりました」
セトー「では、河原の下でぼんやりと買ってきた酒を飲みながら釣りをしていよう。『今日も自給自足か』」
GM「では、<デクスタリティ>でロールをして下さい」
セトー「70です。(ころころ)05で成功」
GM「クリティカル! 素晴らしい……魚が釣れました」
一同「(爆笑)」
セトー「おいしそうな魚かね。では焼いて食いつつ、『仕送りをするのも楽ではないのう。少しでも金を貯めねば』」
GM「ぜんぜん進まないんですけど、話が(汗)」
セトー「じゃあ折角だから合流するか。君らは今どこにいるの?」
エイワー「飲んでます」
ナトゥリム「(笑って)えっ、結局飲んでるの?」
GM「ではその後、役に立たないサダフレモを置いていくのか、それとも三人で酒場に戻って酒を酌み交わすのかを決めてください」
サダフレモ「サダフレモを連れて行くと、度数94%の酒を飲めますよ〜」
GM「(何のアピールをしているんだ?)」
ナトゥリム「サダフレモを交えるのか…(まだ迷っている)」
セトー「(思い立ったように)河原乞食じゃないな、塀を乗り越えて宿に入ろう。普通の酒場に入って、もう少しさっぱりとした格好に着替えていることにしよう」
ナトゥリム「(残念そうに)乞食辞めちゃうんですか?」
GM「(心なしかほっとして)では、あなたの泊まっている酒場は、『ダイヤモンド蜘蛛酒場』というところです」
セトー「それでは自分の部屋にそそそっと忍び込んで、ぱぱっと冒険道具を身に付けるよ。このほうが普通の密偵っぽいんで。(嫌そうに)河原乞食やってると、ほんとにただの乞食になっちゃうからなっ![14] で、早速エイワーの宿に向かうよ」
ナトゥリム「結局、2人で帰ることにします」
サダフレモ「それに付いていきましょう」
GM「……(何だかなあ)」
セトー「よし、合流した。阿呆が三人頭をつつきあって何をしている。お前らが考えても無駄って言うことさ。何の話をしているんだい?」
ナトゥリム「我々三人は今朝、同じような夢をみたようなんだ」
セトー「ほう、そいつは興味深い話だね。どんな夢なんだい」
ナトゥリム「その夢というのは…かくかくしかじかで」
GM「かくかくしかじかっつっても…しかじかできないよね。なぜだかはわかってると思いますが(皆、夢の細かい内容が違うんだからさ)」
ナトゥリム「(やけになって)波打つ色とりどりの天幕が、鎧を着込んだ蛮人達が、角製の弓で、大地の上の太陽の金の八角形が回転し……」
サダフレモ「貴族の坊ちゃん、大丈夫かい?」
ナトゥリム「(まだ続けてる)真鍮の弓が、ヴェルヴェット・サークルで、輝く夜明けなのだ!」
一同「わけわからんー!(大爆笑)」
セトー「なるほどな」
エイワー「わかったのかー!(笑)」
セトー「(GMに)でも俺は自分がそのような夢を観たことは言いませんよ。で、皆には、『ヴェルヴェット・サークル』とは今日俺が見張っていた街の一角で、『輝く夜明け』というのはそのなかにある宿屋の名前だって言うことを明かしましょう」
ナトゥリム「(驚いて)なにっ!?」
セトー「まあ、あんなに危ないところに好き好んでいくヤツはそうそういないと思うがな。少なくとも、堅気では」
ナトゥリム「なるほど。さすがセトーだ。こういったことには詳しいな」
セトー「(気を良くして)とんでもない。こちらこそ昼間は失礼したな」
ナトゥリム「何かあったのか?」
エイワー「いや、大したことじゃない」
ナトゥリム「また、セトーの仕事の邪魔でもしに行ったのだろう。もっと考えて動きたまえよ(偉そうに)」
エイワー「お前に言われたくないわー!」
セトー「どうしても行きたい、というのであれば案内してやらんこともないが」
エイワー「ここでじっとしていてもモヤモヤは晴れない」
ナトゥリム「そうだな。これだけの人数がいれば、襲撃を受けたとしても持ち堪えられるだろうし」
セトー「だが、噂に聞く『白い悪魔』ことメルニボネのエルリックとやらが現れたら、われわれなどひとたまりもないだろうがな[15]」
ナトゥリム「大丈夫だ。そんなことになったら我々だけなく街ごと滅びてしまうから(笑)」
サダフレモ「これ、乞食のお仲間よ」
セトー「俺が乞食の格好をしているときはあまり話しかけないでくれ。で、何の用だ?」
サダフレモ「あんさんは、『ヴェルヴェット・サークル』に関する夢を観たりはしていないのか?」
セトー「知らないな。今のところは白を切り通してみます。ところでGM、夜に『ヴェルヴェット・サークル』へ行くのはどれだけの危険を伴う行為なのかな?」
GM「いつ行っても危険でしょうが、『輝く夜明け』亭が宿だとしたら、いちばん活気があるのは夜でしょうな。昼は安全だけど得るものが少ないかもしれない、ということです」
セトー「じゃあ、これから行ったほうがいいかな」
ナトゥリム「へへへ、夜の街というわけか」
セトー「これを気に、可愛い姉ちゃんと一夜を共にするのもいい息抜きになるかもしれないな」
エイワー「『虎穴にはいらずんば虎子を得ず』とも言うアル」
セトー「お前、どこから来たんだよ(笑)」
サダフレモ「これ、乞食のお仲間よ」
セトー「お前と一緒にするな(笑)で、なんだ」
サダフレモ「わしの魔法で<似姿>というのを使えば、完璧に化けられるんだがな」
セトー「ほう。だが俺は<法>を信奉しているので、魔法などの実験台になるのはごめん被りたいところなのだが」
サダフレモ「それは残念だ」
セトー「ところで、魔法というのは軽々と使っていいものなの?」
GM「いや、ダメですよ」
セトー「それと、身振り手振りがあれば魔法はかけられるの? それとも儀式的な何かが必要だったりするの?」
GM「それは魔法によりけりですね。一例を挙げれば、召還系などの大掛かりなものではない限り、魔法の発動にかかる時間は、消費する魔力ポイントに等しい戦闘ラウンド、というのが基本です。1戦闘ラウンドはおよそ12秒となっています。ちなみに確認しておきますが、キャラクターの手持ち魔力ポイントはPOW(精神力)と同じ値です」
セトー「じゃあ、酒場のなかで突然変身の魔法を使ったりしたら…」
GM「とても目立つでしょうし、色々と目をつけられてしまうでしょうね。なにしろここは<法>の街で、基本的に魔法というのは<混沌>の行為ですから」
セトー「じゃあ、やめといたほうがいいんじゃないか」
■ささやかな心理戦争
GM「そうするとですね、エイワーが昼間出会った、『片目のジャ・ソール』という小男がやってきました」
片目のジャ・ソール「へっへっへっ、呼ばれて飛び出てなんとやら、また、『片目のジャ・ソール』のお話しですかい」
ナトゥリム「なんだ貴様は」
エイワー「また来やがった」
セトー「そいつのこと、俺は知っていていいの?」
GM「では、<アイデア>でロールして下さい」
セトー「26を振ったんで、成功です」
GM「こいつは、有名な法螺吹き野郎のチンピラです。しかも、お互い知り合いですね」
片目のジャ・ソール「おや、『乞食そっくり』のセトーさんじゃありませんか」
セトー「言ってくれるな。何の用件だ」
片目のジャ・ソール「いえね、『ヴェルヴェット・サークル』のお話しが出ていたようなので、それならば良い店を知っているんで、ご案内できると思っただけですよ」
セトー「良い店って言うのは、どういうことだ?」
片目のジャ・ソール「(卑猥な単語を連発する)そう、あんなことや、こんなことができてしまいますぜ」
セトー「前に連れていかれた店は酷かったからな」
片目のジャ・ソール「あんなんじゃありませんよ、これ以上ない快楽があるんです!」
セトー「(ナトゥリムに)だとよ」
ナトゥリム「(サダフレモに)だそうだぞ」
サダフレモ「(きょとんとして)それは、わしに言っているのか?」
一同「(静まり返る)」
ナトゥリム「ところでジャ・ソールとやら、『輝く夜明け』亭を知っておるか」
片目のジャ・ソール「もちろん。あんなことや、こんなことが出来てしまいますぜ。まさに最高の快楽が!」
エイワー「またか(笑)」
ナトゥリム「そういうことではなくてな、もっとこう、どういう人間がいるのか、とか…」
片目のジャ・ソール「あんたも好きだねぇ。でも女の子のプロフィールとか、男のほうがどうかとか、プレイに関する細かなオプションとかは、行ってみてのお楽しみってとこですね。ほら、これが『ヴェルヴェット・サークル』の地図です。俺のオリジナルなんで、観終わったら返してくださいよ」
ナトゥリム「(聞き流し、渡された地図を読んでいる)怪しい名前の店ばかりだ…」
サダフレモ「プレイはどうでもいいが、ここに書いてある薬草の店に行ってみたいなあ」
片目のジャ・ソール「慣れない人には危険な場所かもしれませんが、あっしがついていれば安心です。大船に乗ったつもりでいて下せえ!」
セトー「(地図を観て)[16]『愛の書店』という店があるが」
片目のジャ・ソール「お目が高い。そこはね、48通りだとか60通りだとか、そういう本を売っているところですよ!」
一同「(爆笑)」
セトー「どこもかしこも怪しすぎる…」
サダフレモ「(片目のジャ・ソールに)そこのお若いの、珍しい薬草はあるかね」
片目のジャ・ソール「葉っぱですかい。(コブシを効かせて叫ぶ)宿の隣には薬草店があって、もう<新世界>各地から集められた、ぶっ飛ぶ葉っぱがいっぱい待ってますぜ!」
ナトゥリム&エイワー「(なぜかウケている)」
サダフレモ「じゃあそこまで案内してはもらえまいか」
片目のジャ・ソール「別料金になりますな。さらに10シルバーほどもらわなくては」
サダフレモ「<読心術>の技能で、どれくらいふっかけてきたのかを調べます。(ころころ)技能ロールは成功」
GM「かなりふっかけられている、ということがわかりますね」
サダフレモ「足元を見るのもいい加減にしたほうがいいぞ」
片目のジャ・ソール「ははは、こりゃ一本取られましたな、じゃあ行きましょうか(と、軽く流す)」
セトー「どこにだー」
片目のジャ・ソール「決まっているでしょう。旦那方は『ヴェルヴェット・サークル』に行きたがっておられる。あっしはおまんまのために案内する。フェアな関係じゃないですか」
ナトゥリム「なんと強引な(笑)」
セトー「危険はないんだな?」
片目のジャ・ソール「あっしは顔が利きますから。ぼーっとしてたり、おかしなことをしたりしなければ大丈夫」
エイワー「ぼーっとしていたら危ない目に遭うわけか」
片目のジャ・ソール「そりゃ、自己責任で面倒見るところまでは責任もてませんわな、ははは」
ナトゥリム「片目の言うことはいまいち信用できないが、行くというのであれば、付いて行くのもやぶさかではないな」
セトー「じゃあどうする、行くのか、行かねえのか、はっきりしやがれ」
エイワー「わたしは行くアルよ」
セトー「それじゃ俺も付いていくよ。ジャ・ソールに任せていたら、どんな怪しい場所に連れて行かれるかわからねえからな」
片目のジャ・ソール「これは、これは。あっしを信用して下さらないのか。まあ結構ですがね」
サダフレモ「もちろん、わしは行く気まんまんで」
ナトゥリム「(しばらく逡巡した後に)皆が行くのであれば、付いていくことにしようかな」
■予想を遥かに超えた、まさに怒濤の急展開
GM「すると、急に宿の部屋のドアをノックする音が聞こえます」
ナトゥリム「誰だ? こんな夜中に」
サイモーン「お兄様、お兄様!」
ナトゥリム「おお、妹よ」
サイモーン「探しましたわ。お話は外から全部聞かせてもらいました」
ナトゥリム「(心底驚いて)なにぃっ!?」
ナトゥリムを除く一同「(爆笑)」
セトー「こいつは何のためにここに来たんだ?」
サイモーン「(ナトゥリムを見据えて)私も連れてって下さい!」
一同「なにーーっ!!(驚愕する)」
サイモーン「だって、お兄様を一人にはしておけませんわ」
ナトゥリム「しかしだな、『ヴェルヴェット・サークル』というのがどういうところだかわかっているのか」
サイモーン「もちろん存じております。綺麗な名前のお店が一杯あるところですよね」
一同「(爆笑)」
ナトゥリム「その表現は色々な情報が省かれている気がしないではないが…」
セトー「(GMに)この娘、いくつくらいなの?」
GM「16歳です」
セトー「わっかーい! 兄貴と13も違うよ。実は隠し子なんじゃないか(笑)」
ナトゥリム「いや違いますよ」
セトー「ニヤニヤしながら様子を観察するとしようかの」
ナトゥリム「お前のような若い娘が夜の街に出かけるのは、何といっても危険じゃないのか。行くべきではない!」
GM「それでは<交渉術>でロールをして下さい」
セトー「ここは失敗すると美味しいな」
ナトゥリム「(ころころ)あ、失敗した」
サイモーン「嘘よ! また私に黙って、みんなで楽しいことするつもりでしょ!」
セトー「楽しいこと、というのは間違いではないかもしれない(笑)」
サイモーン「お兄様、私も未熟ながら剣の腕は磨いて参りました。決して足手まといにはなりません」
ナトゥリム「困った。この娘はこう言い出したら聞かんのだ」
片目のジャ・ソール「お姉さん、随分と気風がいいな。気に入ったよ」
ナトゥリム「こら、ウチの妹に余計なことを吹き込むな(笑)サイモーンよ、お前は大人しく家で待っているのだ」
GM「すでに<交渉術>が失敗しているからな。特別サービスで<言いくるめ>でロールしていいよ」
セトー「35%か…。期待薄だな」
ナトゥリム「(ころころ)37だ! 失敗!」
セトー「仕方がない、こっそり耳打ちしてやろう。『後で行方が知れなくなるより、目の届くところに妹さんが居てもらったほうがいいんじゃないか』」
ナトゥリム「確かにそれも一理ある。この娘は言い出したら聞かんことだし」
セトー「残念ながら今日は楽しい快楽のお店はお預けだな。我慢しとけ」
GM「というわけでサクサク行きましょう。皆さん、無事に『ヴェルヴェット・サークル』に入って、『輝く夜明け』亭に着きました。それでは、全員<ラック>ロールをお願いします」
一同「(ダイスをロールする)」
ナトゥリム「成功です」
セトー「成功!」
サダフレモ「成功」
エイワー「…失敗」
GM「ではエイワーはいつの間にか財布が軽くなっていることに気がつく。スリの被害に遭ってしまったようですな。所持金を12ブロンズ減らしてください」
エイワー「大金は持ち歩かないから被害は少ないが、油断大敵だ」
セトー「ところで、この世界で銅貨1枚は日本円でいくらくらいなの?」
GM「500円ってとこですかね」
セトー「なるほど」
片目のジャ・ソール「で、お目当ての『輝く夜明け』亭に着きましたぜ。じゃあ、あっしはこれで」
セトー「これで10ブロンズかぁ。ボロい商売だな」
GM「ジャ・ソールはもう街の喧噪のなかに消え去っていますね」
エイワー「まあ、安心を買ったと思えばいいでしょう」
ナトゥリム「夢に出てきた謎を解く手がかりが、ここにあるのか」
セトー「社会勉強だと思って入ろうぜ。いくら『輝く夜明け』亭がいかがわしくても、気後れしていては何も始まらないからな」
■未知なる恐怖への挑戦
GM「入りました。なかはがらんとしていますね。客は2、3人しかいません。で、テーブルのひとつに『夢見人 予約席』と書いてあります」
ナトゥリム「『夢見人』? 何とも引っ掛かる単語ではないか」
エイワー「それは何かの固有名詞ってことはないですよね?」
GM「それは何とも」
セトー「椅子はどれくらいあるの?」
GM「ぱっと観、5、6個っていうところでしょうか」
ナトゥリム「客の様子は?」
GM「腕っぷしの強そうな男が2人と、肌も露わな格好をしたエキゾティックな美女がひとりですね」
セトー「踊り娘さんというやつか」
ナトゥリム「ここって売春宿ですか?」
GM「微妙なところですね」
サダフレモ「『夢見人』ってどういうことでしょう」
エイワー「ここから何を感じるかは自由ってことじゃないですか」
セトー「何言っておる。『夢を観る人』は固有名詞だ!」
エイワー「それは『ほしをみるひと』[17]じゃないですか(笑)」
セトー「『永井豪』大先生[18]をバカにするな(笑)じゃあ、席にお邪魔するとするか」
サイモーン「お兄様、お兄様、『夢見人専用席』ですって! これって、私たちのことかな!(興奮している)」
ナトゥリム「なんとも頭の痛いことだ」
セトー「すごい誘導のやり方だ(笑)」
一同「(笑)」
ナトゥリム「こら、サイモーン、あまり騒ぐんじゃない」
サイモーン「だって、わくわくしちゃうわよ!」
セトー「(ナトゥリムに)お前の妹は元気だなぁ」
ナトゥリム「少し活発すぎるきらいがありますが、こうなってしまったからには仕方がない。(宿屋の主人に向かって)マスター、あそこの『夢見人』というのは何だ?」
GM「すると店にいた女性が声をかけてきますね」
エキゾティックな美女「あなたたちが、金の八角形の夢を観た人たちなの? 私は、『夢見人』を案内するためにここにいるのよ」
ナトゥリム「(セトーに)だそうだぞ」
セトー「俺は喋らないぞ。自分が夢を観た、ということはバラしてないからな。君ら三人のアクションにくっついているよ」
サダフレモ「お姉さん、夢とはなんですかー?金の車とはどういうことですかー?(しらばっくれているらしい)」
ナトゥリム「(自分で対処しようと決意して)金の八角形の夢だと? それはどういいうことかな? なに、私の友人がそういう夢を観た、と言っていたらしいからな、で、その友人が普通の夢とは違う暗示的なものを感じたというので…」
エキゾティックな美女「(くだくだと続けるナトゥリムを遮って)私は、『夢見人』を案内するためにここに来たのです」
ナトゥリム「(こそこそと仲間に耳打ち)ということらしいが、どうしようか?」
セトー「だれか『コーラー』(パーティのオピニオンリーダー)やりたまえ。話が進まないよ」
サダフレモ「じゃあ私が座ります。立ちっぱなしは疲れるからの」
サイモーン「ほら、お兄様、あの変な人も『夢見人 専用席』に座ったわ。私たちも座りましょうよ! 待ち受ける冒険! 胸が躍るわ!」
ナトゥリム「こら、サイモーン、勝手に動くな!」
ナトゥリムを除く一同「(爆笑)」
セトー「妹さんには『フォーチュン・クエスト』[19]の世界に戻ってもらった方がいいんじゃないか(笑) どうも世界観の軸がずれている[20]」
サダフレモ「(くつろいで)この椅子は座り心地がいいなあ」
サイモーン「(まったりと)ほんとねー」
ナトゥリム「ええいこのままじゃラチがあかん、危険を承知で付いていってみるか」
エイワー「我々を何者かが待っているのは間違いないでしょうからな。行くのも一興かもしれません」
セトー「では、俺も席に着こう」
GM「すると皆さん気が付きますが、彼女は<ジャーコル>人のようですね」
エイワー「おや、こんなところで同郷の者に会えるとは」
ナトゥリム「結局みんな座っているわけ?」
ナトゥリムを除く一同「うん」
ナトゥリム「(意を決して)女よ、先ほど言った、おかしな夢を観た友人というのは、ここに居る者たちのことだ!」
エキゾティックな美女「あなたは違うんですか?
ナトゥリム「私も観ないではないが、ええい、(腹をくくって)わけがわからんが私も付いていってやるから案内したまえ!」
エキゾティックな美女「(眉をぴくりと動かす)まあ、いいでしょう」
エイワー「呆れられてる(笑い)」
エキゾティックな美女「じゃあ、こちらへどうぞ」
■『黒真珠』館の眠れない夜
GM「そうしてあなたたちは真夜中の通りを案内されます」
ナトゥリム「こらサイモーン、走るでない!」
GM「やがてあなたたちは『黒真珠』館という大きな八角形の形をした建物の前に辿り着きますね。正面には鉄の扉があり、扉には牡蠣が描かれています」
ナトゥリム「この建物は…」
GM「兄の慨嘆をよそに、いそいそと入っていくのが1名いるようです(笑)」
ナトゥリム「待て、サイモーン!」
サイモーン「きゃあー!(悲鳴を上げる)」
一同「(爆笑)」
ナトゥリム「真面目半分、呆れ半分の様子で、手を剣の束にかけつつ乗り込みます」
GM「そこは受付と待合室のようになっているのですけれども、待合室の壁に窓のようなものが付いていて、ここでは言えないような…なんだ、その、悦楽の行為が行われていたりするわけです[21]。待っている人を退屈させないようにという、サービスのようですねこれは」
一同「(爆笑)」
ナトゥリム「サイモーンはどうなっている」
サイモーン「(眼を瞑って叫ぶ)不潔よ!」
一同「(笑)」
ナトゥリム「(ため息を吐いて)じゃあ、さっきの美女はどこに行った?」
GM「そこで、あなたたちを待ってますよ」
エキゾティックな美女「あなた方は特別なお客様ですから、お待たせせずにすぐにお通しできます」
GM「そう言うと、彼女は差し招くように奥へと歩いて行きますね」
ナトゥリム「(追いかけながら)なんとも卑猥なところに連れてきてくれたものだ」
GM「通路にものぞき穴みたいなものがいくつもあってですね、通りを歩いているでっぷりと太り顔をヴェールで隠した怪しげな方々が騒いでおります」
怪しい男「(興奮して)こりゃすげぇ、半獣人と番えるのはここくらいだぜ![22]」
エイワー「はは(笑)」
セトー「それってレアなの?」
GM「<イルマー>は厳格な<法>の倫理が支配している街なので、とても珍しいことですね。そんなこんなで長い廊下はだんだん下っていって、突き当たった扉の向こうにある部屋に案内されます。部屋は簡素な会議室のような造りになっていて、ワイヴァーンの兜を被った男が座っています」
ワイヴァーンの兜を被った男「ようこそ、『黒真珠』館へ」
エキゾティックな美女「『夢見人』様たちをお連れいたしました」
ワイヴァーンの兜を被った男「ご苦労、下がって良いぞ」
エイワー「あなたが我々をここに呼んだのですか?」
ワイヴァーンの兜を被った男「左様。私はコーラン・タル。そして君たちは『夢見人』。つまり、神々に選ばれし者たちだ。君たちは私に手を貸すためにここに呼ばれたわけだが、その代わりに、望みうる最も素晴らしい贈り物を授かることになるだろう」
エイワー「神々? <混沌>の手になる者どもか?」
コーラン・タル「そうではない。<法>であるとか<混沌>であるとか、そのような領域を超越した者たちだ。彼らは私たちに、不死性を与える力を持っている」
ナトゥリム「仰々しいやり口で何かと思えば、宗教の勧誘とはな」
コーラン・タル「まあ、疑わしく思うのも無理はない。不死性に魅力を感じない者には、もちろん、代わりに必要なだけの金銭的な報酬を支払うだけの準備はある」
エイワー「我々は何に協力すればいいんだ?」
コーラン・タル「それはおいおい説明していくが、簡単なことだ」
ナトゥリム「莫大な財に興味がないと言ったら嘘になるが、それにしてもわけのわからん夢だの不死性だの、なんとも物語めいた話ではないか」
エイワー「お前の依頼を受けたら、これらの疑問は解決されるのか?」
コーラン・タル「信用がならんようだな。案ずるより産むが安し。シラーナ!」
GM「そうすると、部屋の奥にあった扉を開けて、シラーナと呼ばれた半裸の女性がやってきます。そして、部屋の中心にあるテーブルの上に、仰向けに横たわります」
シラーナ「(ナトゥリムに)その剣で、私を切り刻んで」
ナトゥリム「何だと? 仮にも騎士たるこの私に、そのようなことができるものか!」
シラーナ「大丈夫、私は死なないの」
ナトゥリム「それでも女を手にかけたりはせん! ワイヴァーン男よ、そなたがやりたまえ」
コーラン・タル「私がやっても、君たちの疑いは晴れないだろう。仕掛けがあるかと思われては困るからな」
ナトゥリム「(困っている)お嬢さん、眼を醒ましたほうがいい、君は騙されている!」
エイワー「私も斬るのには反対アル」
セトー「じゃあ、俺が行こう。ひと思いに腹に突き刺すよ」
サイモーン「きゃあー!」
GM「セトーがナイフを突き刺すと、女性の腹部からは血飛沫が溢れ内蔵が飛び散る…と思いきや、彼女には傷一つ付いていません[23]」
エイワー「これが不死性なのか」
サダフレモ「人間とはとても思えない」
ナトゥリム「ナイフの柄は引っ込んだりしないのですか」
セトー「するわけがない。これは俺の私物だ」
ナトゥリム「むむっ」
セトー「なあワイヴァーンよ、どうして使命を受けるのは俺たちなんだ」
コーラン・タル「それは君たちが、私の送ったメッセージを受け取ることができるほど高い能力を有していたからだ。誰しもが選ばれるわけではない。それに相応しい、精神と肉体の強さを併せ持った者のみが、使命を成し遂げることができるのだ」
ナトゥリム「我々は具体的には何をすればよいのだ?」
コーラン・タル「為すべきことは2つある[24]。まずは<トルースの森>へ行くのだ。そこでは、神々の使者が太古の言語で書かれた1冊の書物へと君たちを導いてくれるだろう。この書物の性質そのものは君たちとは関係がないが、直ちにそれを手に入れ、手に入れたらすぐに<フェイケシュ>の街へ行き、遠方の<エシュミール>から来た1人の男を捜さねばならない。彼の名はチャンルームという。彼は『黒い駱駝』亭という宿屋に泊まっているはずだ。チャンルームに書物を見せ、これを渡すのだ」
GM「そう言って、コーラン・タルは手元から半分に割れたメダリオンを取り出します。それは、青鷺の頭をした男性の腰から上を表しています。腕には、切っ先鋭い反り身の剣が握られています」
コーラン・タル「チャンルームは君たちにメダリオンの残り半分を見せるだろう。無事に照合が終われば、虎の形が刻まれた翡翠の箱を渡すだろう。それを持ち帰ってほしいのだ。そうすれば君たちは、終わりなき生命という報酬を得ることができる」
セトー「(GMに)この世界において不死性というのはどれくらいの価値があるの?」
GM「ぜんぜん普通のものではないですよ、太古に栄えた−まあいまも一応存続していますけど−メルニボネ人という人たちが追い求めていたけれども、得られたかどうかは定かではありません。それに不死性とひとくちに言ってもいろいろあって、薬によって目指す人もいれば魔法の研究を通して追い求める人もいるし、英雄となることで神に近付こうとする人たちもいます。とにかく、非常にレアなものだと思って下さい」
ナトゥリム「まさか、不死性などというものが本当に存在するわけがない!」
サイモーン「(話に付いていけず、呆然としている)」
セトー「この女は何者なんだ?」
GM「女性はもう奥に下がっていますよ」
セトー「じゃあ、さっきの女は何者なんだ?」
コーラン・タル「私の友人だよ。繰り返しになるが、どうしても信じられないのであれば、金銭にて手を打つことも可能ではある。どちらを選ぶかは君たちの自由だ」
サダフレモ「サダフレモはすっかり私欲で動いているので、とても乗り気ですよ」
エイワー「我々に夢を送ったのはお前なのだな?」
コーラン・タル「その通り」
エイワー「あの夢にはどういう意味があるのだ?」
コーラン・タル「夢、それは解釈する者によって幾様にも変化を遂げるもの。私は使命をイメージして夢を照射する。すると夢には、啓示という形で使命を達成するための具体的な方法が織り込まれるわけだ。その内容を私は知ることができないが、君たちは夢を通して探索の過程がどのようなものであるかを学ぶことができるし、探索を引き受けるための心の準備を整えることもできる」
ナトゥリム「不思議な力だ。(サダフレモに)魔法を使えばこのメカニズムに隠されたものが暴けるのではないかと思うのだが」
GM「(代わりに答える)それはあり得ることだけど、単に魔法で解決、ってのは駄目だよ。ロールプレイが伴っていないと」
ナトゥリム「つまり、あなたは我々に何かやらせたいと」
セトー「聴いていろよ。ワイヴァーンは、もう内容話したから」
ナトゥリム「いやそうではないのだ、私としては、あの男自体が何を企んでいるのか訊いたつもりだったのだ」
エイワー「どうやら、うまくはぐらかされたみたいアルな」
■不死性と白き狼
ナトゥリム「莫大な財にはとても心惹かれるが、それでも釈然としない話だな。普通にメッセンジャーに依頼すればいいのではないか。それにいくらなんでも、君自身が怪し過ぎではないか。報酬が大きいのは結構だが、その前に命を落としかねない仕事や、一度出掛けたら戻ってこられないような仕事は勘弁して欲しいのだがね」
コーラン・タル「書物を手に入れることそのものは多少の困難を伴うもので、単なるメッセンジャーには荷が余る。夢の内容を正しく解釈出来る知恵のある者でなくては、仕事は勤まらない。『輝く夜明け』亭に集まってもらい、その後場所を変え、この淫売宿へと来てもらったのは、この任務の重要性を鑑み、情報の漏洩を心配せずともよい場所を確保することがあったからだ。
そして、私の顔の大部分を覆っているこの兜は古代メルニボネで創られたもので、神々と接触するために重要な役割を担っているので外すわけにはいかない[25]。なかなか信用してもらえないのは悲しいが、それでも非常に重要な任務であることは理解して欲しい。私自身は現在取り組んでいる仕事に忙しいので、残念なことに大きな手伝いができそうにないが、最大限の助言は行うつもりなので安心してくれ」
エイワー「真っ当に行っても、煙に撒かれるようアルな。ではもう一つ質問させてもらおう。『輝く夜明け』亭で私たちを待っていた女性が言っていたが、『黄金の八角形』とは何のことだ?」
コーラン・タル「それは、君たちに夢を伝えるイメージの媒体、とでも言うべきものだ。『黄金の八角形』を通じて、神々と私たちは繋がりを保つことができる」
エイワー「…だいたい分かった」
セトー「もし我々が依頼を断ったらどうなる?」
コーラン・タル「それは君たちの自由だが、君たちは神々の期待を裏切ることになるし、今後彼らの寵愛を得ることも難しくなるだろう。いわんや、不死性をや」
セトー「(考え込んでいる)」
コーラン・タル「(畳み掛けるように)私が言う神々とは、<混沌>や<法>という狭い枠を越えた崇高な方々で、直接に彼らと接触を行うことができる能力を持つものは多く居ない。ゆえに断言してもよいが、依頼を受けなければ、君たちは飛躍への大きな機会を失うことになるだろう。自らの可能性を否定するのは、向上心のない愚か者だけだ」
GM「(何やらこっそりダイスロールをしている)」
コーラン・タル「私は神々より、私たちの生きるこの世界<新王国>が想像もつかない破滅へと向かっている、と告げられた。カタストロフを防ぐために、使命を遂行してもらう必要がある。もちろん使命そのものは非常に込み入ったもので、私ひとりの手には余る。ゆえに必要な仕事に手を貸してくれる協力者が必要なのだ」
ナトゥリム「ますます怪しい宗教に見えてきたな。だが、その依頼とやらをさっさと遂行して報酬をもらうのも悪くないように思えてもくる」
コーラン・タル「(畳みかけるように)そして神々はこう告げた。世界に破滅をもたらすその張本人は、かつて大いなるメルニボネ皇帝として汚れ無きルビーの玉座に座っていた、『白い狼』エルリックという男だ。エルリックの力は強大であり、しかも<混沌>の神々は彼の気紛れを煽り立てている。
だが例の書物、そして翡翠の箱の中身さえあれば、私は運命を出し抜き、あの呪われし白子めを、魔剣ストームブリンガーともども、<忘却界>の彼方に葬り去ることができるのだ!」
サダフレモ「(急に熱心になって)そうか、あんたもエルリックを倒そうとしているのか」
コーラン・タル「その通り」
サダフレモ「では、わしは協力するぞ。わしはあの、<魔術師の島>の生き残りだ!」
コーラン・タル「なんと!(驚く)」
サダフレモ「というわけでサダフレモは依頼に乗ることに決定しました。あとは皆様も、頑張って協力するようにして下さい。エルリックを倒せるのならば本望だ」
ナトゥリム「私としては不死性とやらに興味はない。莫大な財とやらは、確かに用意できるのか」
コーラン・タル「もちろん」
ナトゥリム「その本とやらをチャンルームに渡した後、戻ってみたらお前はドロンしている、ってことはないだろうな」
コーラン・タル「それはない」
エイワー「じゃあ私もナトゥリムに付き合うよ。どうせこのまま帰ったとしても収穫はないだろうし」
ナトゥリム「(悩む)仕事の話と観れば悪い話ではないが、問題は依頼主が怪し過ぎることだ」
GM「悩んでおるな。それでは、<アリージャンス>チェックを行おう[26]。自分の一番重要な<アリージャンス>の値以下をロールして下さい」
ナトゥリム「以下か…(ころころ)惜しくも出なかったわけですか」
GM「ではですね、微妙にですね、こんなことを感じます(メモをナトゥリムに渡す[27])」
ナトゥリム「(読んで)ふふ…むふふ…」
GM「それで、ナトゥリムさんはどうしますか?」
ナトゥリム「これは、この世界観的にはどういう位置づけなんだろう」
GM「もっと詳しく言ってもらえれば答えられるかも」
ナトゥリム「(GMに耳打ちする)」
GM「それはですね、つまりコーラン・タルは『超越したもの』って言っているわけですよ、<法>とか<混沌>とかの低次な領域を。にもかかわらず…」
ナトゥリム「ふぅむ、なるほど。ではちょっとサダフレモに耳打ちしましょう。『不死性とは、魔法で実現可能なのか?』」
GM「それはこちらで答えられますね。できるかも、とは言われていますが、真偽は定かでない。譬えて言うならば、秦の始皇帝が不老不死の薬を求めたけれども、その試みが史実通り失敗したのか、それとも徐福によってこっそり発見されたのかはわかっていない、みたいな」
ナトゥリム「なるほど(笑)」
サダフレモ「いずれにせよ、魔法の最終目的の一つではありますな」
GM「ああ、あと言っておくけど、どちらでもいいんですよ。あんまりさ、コンピュータRPGでよくあるオートモードだと思ってほしくないんですよ」
セトー「そうなの? 断るという選択肢を選んでもいいわけね」
GM「もちろん」
セトー「でも断ると、こいつの妹が危険に曝されそうだし、どうも気にくわないな。不死性っていうのは、<混沌>の神々が為すことなのか<天秤>の神々が為すことなのか<法>の神々が為すことなのかそれともそのどれもが為すことなのか、そういうのってわかる?」
GM「人間のレベルでの不死性と意味ならば、どの神々でも持っています。が、神々の間でさえ不滅であるということはあり得ないでしょう」
セトー「なんかどうも、なあ。夢の内容からしてちょっと怪しいし。こいつの言うことを聞いてしまうとロクでもないことが起きそうだなあ」
ナトゥリム「それにしても、随分と簡単に不死性が実現できるものだな。そんなホイホイ与えられるものなのか?」
コーラン・タル「大いなる神に貢献したものであるからこそ、特別の恩寵として下賜されるものであるから、決して簡単であるとは言えないだろう」
ナトゥリム「セトーに耳打ちします。『どうも私としては怪しい気がする』。そしてコーラン・タルには『<混沌>でも<法>でもないというのは、なんとも大それた話ではないか』と言います」
コーラン・タル「(超然とした態度で)そうか」
ナトゥリム「君らは不死性が欲しいのか?」
エイワー「やはりあまり興味が持てない。実感が湧かないんだ」
セトー「俺は夢を追っていないから、何とも言えないな」
ナトゥリム「(サダフレモを観て)こちらはやる気満々のようだな」
GM「じゃあナトゥリムには残念ながら協力してもらえないということなのかな。じゃあ、ナトゥリムはふとコーラン・タルの瞳を観てしまった。するとその眼は真っ赤に輝いていた!」
ナトゥリム「ええっ!? よし、意を決して宣言しよう。『私としてはこの話を信じ切れないな』」
GM「その前に、<アイデア>ロールをして下さい」
ナトゥリム「失敗!」
GM「この瞳をどこかで観た気がするけれども、思い出せない」
ナトゥリム「うぅむ」
セトー「(大声で)どうやら察するに俺は夢そのものを観ていないので資格がないらしい、ここはサイモーンを連れて外へ出ていることにしよう。『お嬢ちゃん、こっちに来な』」外へ出て、仲間のところで待つ。仕方あるまい」
エイワー「私は話に乗りましょう。興味を抑えられなさそうだ」
ナトゥリム「好奇心旺盛だな(笑)」
エイワー「見聞を広めようとするか!」
セトー「(ナトゥリムに)あとはお前だけだ! 決断しろ!」
ナトゥリム「じゃあ、言います。『正気かエイワー! 私はこんな怪しい話に乗ることはできん。失礼する!』」
GM「STOP.その前に、シーンを変えよう。部屋を出たセトーには、案内してくれた女性が外で待っていて、声をかけてきます」
エキゾティックな美女「どうされたんですか?」
セトー「いや、話を聞いていると俺には資格がないようなのでね」
エキゾティックな美女「(渋々と)そうですか…」
セトー「『仲間が出てくるまで、ここで待たせてもらおう』と廊下に立っています。そしてサイモーンに、『お嬢ちゃんも今日はこれで社会勉強になったと思うが、これからはあまり面倒なことに首を突っ込まないようにな』と言っておこう」
サイモーン「難しい話ばかりで、頭が痛くなりそう」
セトー「さてはバカだな、こいつ(笑)」
サイモーン「でも、あなたは本当に夢を観ていないんですか? ほかの3人には見せてたのに、神様も残酷なことをするのね」
セトー「なあに、俺の力が足りないってことかな」
サイモーン「まあ、謙虚なお言葉。お兄様にも聴かせてあげたいわ」
セトー「いやいや、あいつはいいヤツだよ」
エキゾティックな美女「(2人の和やかなやりとりを聴いて驚き)あなたは『夢見人』ではなかったのですか?」
セトー「ああ、だから皆の話がさっぱりわからないんだ」
エキゾティックな美女「奇妙なことですね、コーラン・タル様が認めておられるにもかかわらず『夢見人』ではないなんて」
セトー「それはこの娘(サイモーン)も一緒じゃないか?」
GM「では、<ラック>ロールを行ってください」
セトー「(ころころ)86! しっぱーい!」
サイモーン「(ぺろっと舌を出して)実はあたしも夢を観ていたの[28]。黙ってて、ごめんなさい(夢の内容が書いた紙を見せる)」
一同「(大爆笑)」
セトー「(ナトゥリムのプレイヤーに)お前の妹は大変なことになっているぞ! でもこれ、俺は聴いちゃってていいの?」
GM「もう話しちゃったんですよ」
セトー「やった、情報ゲット! (サイモーンのカードを奪い)じっくり夢の内容を読ませていただこう」
GM「というわけでシーンをカットだ」
GM「一方で部屋のなか。睨み合いが続いています」
コーラン・タル「で、どうするかね?」
ナトゥリム「私としてはこの話、信じ切れない」
GM「エイワーとサダフレモは、ナトゥリムがひとりでゴネてるのをどう思いますかね?」
エイワー「まあ、この怪しさを観れば仕方がないんじゃないの、と思いますね」
サダフレモ「例によって貴族の坊ちゃんが悩んでるなぁ、と。『坊ちゃん、坊ちゃん、あまり長々とされても困るんだがね』」
ナトゥリム「(考え込んだ挙句、苦渋に満ちた表情で)……私は今回は降りることにさせていただこう」
セトー「さあ、票が割れました(笑)」
コーラン・タル「そうか。本当にそれでいいのかね?」
ナトゥリム「残念だが、私はあなたを信じきることができない。失礼させてもらう」
コーラン・タル「それでは、外で待っておられるもう一人の方を連れて来ていただけまいか」
ナトゥリム「セトーを? 彼は夢を観ていないぞ」
コーラン・タル「まあ、手伝いくらいにはなるだろうからな」
ナトゥリム「ではいったん部屋を出て、待っているセトーに事の次第を話そう。『さっきのワイヴァーン男がお前を呼んでいるぞ』」
セトー「俺は夢を観ていないんだが」
サイモーン「でも、私は確かに観ましたよ!」
一同「(爆笑)」
セトー「こいつは放っておくと危険だな。妹に先越されないうちに部屋に入ろう」
サイモーン「君が夢を観ていないというのは本当か?」
セトー「ああ」
コーラン・タル「私が観たところ、君には夢を受け取る資格があるはずなのだが。神々の力を受け取る資格を……」
セトー「それはどういうことだ?」
コーラン・タル「夢を観ていないと思い込んでいるだけなのではないかな? 私は君たちがどのような夢を観たのかを知ることはできないが、どのような人間が夢を観ることができのかははっきりとわかる。神が認めたもうた『夢見人』の相に、そなたはぴたりと符合するのだ」
セトー「つまり、俺は夢を観ているはずだ、とあんたは言いたいわけだ」
コーラン・タル「その通り」
セトー「(静寂の後に)……まあいい、つまらん隠し事をしてもしょうがない。確かに俺は夢を観たよ」
コーラン・タル「ほう」
セトー「俺の仲間たちがどのような夢を観たのかは知らんが、きっと似たようなものだろう。だが気に入らないね。あんたの話に出てくる不死性という報酬と、夢の内容はどうしても釣り合わない。俺は、自分の身に過ぎた賭けはしない性質でね」
コーラン・タル「(からかうように)怖気づいたというわけか?」
セトー「何を言っているんだ。逆だよ。多過ぎると言っているんだ。たかだか森のなかで一冊の本を探し出し、それを渡すだけでイモータルになれるのか?」
コーラン・タル「しかしながら、かの業が決して夢物語ではなく実在し、私がそれを与えられるということは、確かに実証されたではないか」
セトー「それはそうだが……」
GM「じゃあ、セトーは<アリージャンス>チェック行きますか。<法>でお願いします」
セトー「08しかないよ。(ころころ)おおおっ!!!(驚く)」
ナトゥリム「ちょうど08が出てますね!」
GM「コーラン・タルからは<混沌>の臭いがしますね」
セトー「Oh、GOD!!」
GM「続いて<アイデア>ロールお願いします」
セトー「成功!」
GM「するとですね、コーラン・タルの話し方がやけに古めかしい、擬古文調とでも言いますか」
セトー「…自分的にも目星を付けていることがあって、夢の内容から判断してもこいつの言うことは聴かない方がいいんじゃないか、ってのがあるんだよね。なので、『申し訳ないが、この話は丁重にお断りさせていただこう。他のヤツを当たってくれ。すまないな』」
コーラン・タル「よくわかった。今まで話に付き合っていただき感謝している。残りの2人にはあとで仕事を手伝ってもらうとして、君たちには私から、ちょっとした贈りものをさせていただこう[29]。話を聴いてくれたほんの御礼だよ」
セトー「そんなものは必要がない。もちろん、ここで聴いたことは他言しない。それが俺の流儀というものだ」
コーラン・タル「そうか……」
セトー「そうして部屋を出ようとします」
■大乱戦!
GM「……するとですね、部屋の空気が淀みはじめます」
コーラン・タル「(何か合図のような仕草をする)」
セトー「(絶叫)嫌だーーっ!! そんなことをするとせっかく手伝うって言ってる2人にも正体がばれちゃうぞ!(笑)」
GM「……コーラン・タルの背後のドアが開き、武装した男が2人現れます」
セトー「逃げる!」
GM「わかりました。」
セトー「(裏声で)助けてぇーっ!!」
ナトゥリム「(笑)」
セトー「おお、『かまいたちの夜』風に言えば、変な選択肢ばっか選んでたら、えらいシナリオルートに入り込んでしまったという感じだ。やべぇ!」
GM「それでは、位置関係をはっきりさせるため、メタル・フィギュアを配置して下さい」
セトー「俺はドアの側に居る。部屋を出ようとしているわけだから」
エイワー「うちらは部屋のなかにいたんですよね、じゃあセトーをガードできるような位置ということにしておきましょう」
サダフレモ「『コーラン・タル様!』と、コーラン・タルの側に付きます」
ナトゥリム「私は外ですね。サイモーンを守れる位置に」
GM「隣には、案内してくれたお姉さんが待ってますね(にやり)」
ナトゥリム「<混沌>や<法>を超えるという未知なる神々が認める妹の戦闘能力が、いま明らかに(笑)」
コーラン・タル「残念ながら、情報を漏らす可能性のある者には、消えてもらわねばならん」
セトー「これが報酬ってわけかい! 秘密を守る、と約束したじゃないか」
コーラン・タル「念には念を入れないとな。(手下に)こいつらを、ひっとらえろ!」
GM「男たちはデーモン・シミターを抜き放ち、コーラン・タルは呪文らしきものの詠唱を始めます。誰でもいいから1D6を振ってください。そしてナトゥリムは<ラック>ロール」
エイワー「3です!」
ナトゥリム「余裕で成功」
GM「ナトゥリムは部屋の様子がおかしいことに気が付いていいですよ。あと、3ラウンド後に何かが起こります(笑)」
セトー「デーモンでも召還するのか?」
ナトゥリム「部屋のなかで異変が起こっているらしい。妹の手を引いて扉の所へ行き、扉を開けてなかを覗いてみたいのですが」
GM「それくらいは許可しよう」
セトー「(背後の扉が急に開いたのに驚き)ぐわっ!」
ナトゥリム「(叫ぶ)どうした、セトー!」
GM「それではここから戦闘ラウンドを開始しましょう。行動はDEX(敏捷性)順です。一番高い人は誰ですか」
エイワー「18!」
セトー「14」
ナトゥリム「16」
サダフレモ「16」
セトー「盗賊の俺がいちばん遅いぞ!(笑)」
GM「この順番は、基本的には不変です。格子状のマス目で区切られたマップ上をキャラクターは1ラウンドに8マス動けますが、4マスを越えて移動してしまうと、攻撃は次のラウンドに持ち越しとなります。また、移動フェイズと攻撃フェイズを分けて、2マス移動するとそのラウンドはDEXを5、3から4マスの場合はDEXを10失わせるというルールがあるんですが、これを導入すると非常に処理が煩雑になるので、とりあえず外させていただきます。DEXを減らさず、任意に行動順だけを遅らせることは可能ですが、いったん遅らせた行動順を戻すことはできません。また、一度接敵してしまうと、<回避>ロールに成功しなければ、そこから離脱することはできません。まあ、一発相手に殴るチャンスを与えれば、その後無条件で離脱できるというオプションもあるにはありますが」
セトー「ふむ」
GM「ちなみに案内のお姉さんはデーモンへと変身させていただきましょうかね。胸に刃が生え、こめかみからは触手がわらわらと蠢いている。防御デーモンのティーク・ティヴァ様のお出ましだ。DEXは16」
ナトゥリム「速っ!」
セトー「ここから可及的速やかに逃げるんだ!」
GM「コーラン・タルが詠唱を続けると、徐々に影のようなものが差し込み始めます」
セトー「やっぱデーモンだ! やべー!」
ナトゥリム「詠唱は止められないの?」
GM「さあ? どうなんでしょうね。ちなみに、コーラン・タルのDEXは18あったりします。そして男は16、14。サイモーンは13です」
ナトゥリム「これじゃ、先手は取れないな。エイワーに賭けるしかないな」
エイワー「1歩動いてセトーを庇おう。そうですな、『コーラン、約束が違う。随分な真似をしてくれるじゃないか!』とでも言います」
コーラン・タル「(相手にせず、詠唱を続けている)」
ナトゥリム「ダメだ、もう何も通じそうにない(笑)」
エイワー「じゃあ仕方がない、攻撃しましょう。とりあえず武器の命中率は216%あるんですよ、これを116%と100%に分けて、2回攻撃[30]ということになりますね。(ころころ)一発は普通に成功、(ころころ)もう一発も普通に成功ですね。でもダメージはいまいちだなぁ」
セトー「(真面目に)君は不死性には興味がないのか?」
エイワー「こういう状況になったからには、仲間の方を取りたいというのが正直なところで[31]。こいつらに従ってもロクなことはないでしょうし」
GM「続いてコーラン・タル。詠唱を続けてます」
セトー「詠唱を中断させたりはできないの?」
GM「実は、大掛かりな魔法というのは、もっと複雑な儀式の過程を経て成り立つものなのです。しかしながら簡単な詠唱しか行なわれていない。ということは、種明かしをすれば、あらかじめ簡素な封印を施していたモノを解放する、そうした類の行為を行っているものだということで」
セトー「(裏声)いやぁああああ!!!!」
エイワー「次はサダフレモか。どうする?」
サダフレモ「どうしましょうかねぇ」
セトー「(見かねて)迷うんなら、こういうゲームだから敵方に付いてみるのも悪くはないかもしれない」
サダフレモ「どっちかというと、エルリックへの復讐に燃えているので、迷いはしないですね。コーラン・タルの詠唱が終るまで待機します」
ナトゥリム「(啖呵を切る)コーラン・タル! 私は先ほど、聴いたら後に戻れなくなるような話は御免だと言ったはずですがね!」
コーラン・タル「(無視して、詠唱を続けている)」
ナトゥリム「って、詠唱中でしたね(笑)じゃあ振り返って、案内してくれたお姉さんに、『美しい女性を傷つけたくはない。そこをどいてくれ!』」
GM「もう彼女、ほとんどデーモンなんですけど(笑)」
ナトゥリム「こっちもか(笑)じゃあ仕方がない、剣を抜こう」
サイモーン「私たちをやっつけようたって、そうはイカの燻製よ![32]」
一同「(爆笑)」
ナトゥリム「この娘は……下がってなさい」
サイモーン「私も一緒に闘うわ!」
ナトゥリム「気持ちはありがたいが、今のところは私の後ろで身を守ってなさい。では『人ですらないってわけかい。悲しいな!』とロールプレイしつつ、ばっさりとデーモンをブロードソードで斬りつけます。<ブロードソード>の技能判定ですね。100%、100%で。(ころころ)2発とも普通成功ですね」
GM「では<回避>判定(ころころ)1発だけ命中ですね。2回目以降は1発につき<回避>にマイナス30のペナルティが付くからなぁ」
ナトゥリム「それでも5点しかダメージが行かない……しょぼーん」
GM「デーモンのラウンドは変身しただけで終わりですね。次はセトーです」
セトー「腰からナイフを引き抜き、扉を蹴り開けて、開けっ放しにしつつ、開いたところを迂回するように移動しよう」
GM「じゃあ続いて男たちの番だ。一人が一歩動いて斬りつけます。3回。50%、50%、72%でデーモン・シミター。オープン・ダイスで行きます。(ころころ)外れ、クリティカル、ファンブル!」
エイワー「(ルールブックを読んで)クリティカルを完全に避けるにはクリティカルで避けるか受けるかしなきゃダメなのか。(ころころ)さすがに出ないな。普通に成功だから、防具無視にはならないようだけど。でも<楯>ロールも併用してダメージを分散させよう。」
GM「ダメージは2回振り足しになるので、なんと36点!」
エイワー「それは…楯が砕け散りますね。鎧の防御点もいい目が出ないし。いきなり耐久力が半分を切ってしまった!」
GM「『重傷表』を振ってください」
エイワー「(ころころ)出目は04です」
GM「足の腱を断たれるか、踝の骨が癒着し、びっこを引くようになる。背骨が神経に傷を受けるのでもいいけど」
エイワー「踝にしときましょう」
GM「では、DEXを3ポイント失ってください」
■黒き剣の惨劇
GM「次のラウンドに移りますね。コーラン・タルは詠唱を続けています」
ナトゥリム「エイワーがDEX減少したので私からか。どうしようかな。目の前の、美女からなんだかわけのわからないものに成り下がってしまったお姉さんに攻撃。今度は50%、50%、50%、50%で4回攻撃に切り替えましょう。(ころころ)01、35、63、77!」
セトー「クリティカルが出てる!」
GM「いや、01はクリティカルを上回る『貫通』というものになります。貫通、通常命中ですね。では、こちらは2回とも<回避>します。(ころころ)成功、よっしゃクリティカル!」
ナトゥリム「ええー」
GM「でも、『貫通』が出るとたとえ相手が<回避>に成功しても、完全なダメージが当たりますよ」
ナトゥリム「(ころころ)ダメージは23点!」
GM「これは重傷だな。ナトゥリムに重傷表を振らさせてあげよう」
ナトゥリム「それはそれは。(ころころ)27です」
GM「『手首か手を負傷する。ふくらはぎか太股の筋肉をひとかたまり切り取られる』これでSTR(筋力)が1D3減ります(ころころ)3点か」
サダフレモ「次は私か。コーラン・タルが召還しようとする存在がどこから出てこようとしているのか、後学のために見ておきます」
GM「指輪から出てこようとしているようですね」
サダフレモ「なるほど」
GM「次は手下か。こいつら、『静かなる男』という暗殺者集団の一員なのですけれども、一人が『頼んだぞ』と言って離脱し、セトーの方に行きます。(ころころ)<回避>は成功。とりあえず接敵状態から離脱はできました」
ナトゥリム「律儀にデーモンの相手か。こいつを倒さなければ道が空かないしな」
GM「で、『静かなる男』の片割れはそのままエイワーにデーモン・シミター。(ころころ)ごめん、またもやクリティカルが出ちまった」
セトー「どうなっているんだ、GMのダイス目の良さは?」
GM「気合いのたまものでございます」
エイワー「(ころころ)クリティカル避けは無理でしたわ」
GM「じゃあ、通常ダメージか。(ころころ)ダメージは17点」
エイワー「ハーフプレート(胴鎧)の防御点は1D8+1点か。出目によっては……(ころころ)くそっ、出ない! ダメだ、死亡。木っ端微塵だ!」
GM「ご愁傷様。次からはサイモーンをロールプレイして下さいな」
セトー「すまんのぅエイワー。俺が意地を張ったばっかりに(涙)。お前の死は無駄にはしないぞ、ここはいったん退却して形勢建て直しだ。そのためにはまず邪魔なデーモンを倒さなければ。仕方がない、<ダガー>武器技能を分散して4回攻撃!(ころころ)クリティカル1回、成功1回。出目、悪すぎ」
GM「回避は、全部失敗」
セトー「クリティカルのダメージは16点、普通成功の分は7点」
GM「それはさすがに……防御デーモン、ティーク・ティヴァは奈落へと帰っていきます」
セトー「やった!」
サイモーン「私の活躍の場が取られてしまった(笑)それでは、疲労しない程度に全力で逃げましょう」
■死闘の果てに
GM「次のラウンド。ようやくコーラン・タルの詠唱が終りました。この世ならぬ地獄めいた咆哮とともに、サラマンダーが登場します」
サイモーン「来たぁ(笑)!」
サダフレモ「デーモンじゃなかったのか」
セトー「みんな、さようなら(笑)」
エイワー「まだ逃げられますよ」
セトー「ゾンビとしてか(笑)」
サイモーン「転進します(笑)一目散に玄関の方へ向かいましょう。来た通路を戻ります。もちろん喘ぎ声が聞こえる方には行きません」
セトー「次はサダフレモか。動きがないが」
サダフレモ「うーん、こっちも精霊を召喚しようか迷っているので様子見です」
ナトゥリム「私は、サイモーンが逃げたのを見計らって、開け放たれた扉の後ろに下がり、追跡を撒くために<闇夜>の魔術を使います。時間稼ぎくらいにはなるだろう」GM「うん、範囲は直径4ヤード程度、とあるので大丈夫ですね。『静かなる男』たちは突然発生した漆黒の雲に戸惑っています」
セトー「よくやったナトゥリム! 俺もこの隙に戦略的撤退だ(笑)」
GM「それでは第4ラウンド目ですね。コーラン・タルは部下を叱咤し、<魔法消去>を<闇夜>に覆われた空間に投射します。これは魔法をかけるのにかかった魔力ポイント以上を消費すれば成功するから、OK、暗闇は消えました」
コーラン・タル「手間をかけさせおって。(サダフレモに)仲間たちは皆逃げ去ってしまったようだが、どうするのだ、お前は」
サダフレモ「私は、確かに協力すると誓いました。二言はありません(きっぱり)」
セトー「うほっ(笑)」
コーラン・タル「そうか。では、やれ!」
サダフレモ「?」
コーラン・タル「お前がヤツらを倒すのだ! その身を持って忠誠を示すがいい!」
一同「(爆笑)」
サダフレモ「かしこまりました。『静かなる男』どもを引き連れて追いかけましょう。みんな、うまく逃げてね(笑)」
サイモーン「これはまずい。DEXが一時的に減少しますが、ここは『疾走』のオプションを取りましょう」
GM「サラマンダーが動いてからにしてね。(楽しそうに)こちらは移動速度が速いので、すぐに負けじと追いかけてきます。『静かなる男』たちもね」
ナトゥリム「ここはまずい、もう一発<闇夜>だ! で、まだ移動力が残っているので動きます。これで外に出られるはず」
GM「それは成功ですね。続いて<ラック>ロールをお願いします」
ナトゥリム「(ころころ)出目は15、成功です」
GM「それでは、警備に気が付かれずに外へ出られました」
ナトゥリム「平静を装っていよう」
サイモーン「私も出口に着きました。(ころころ)<ラック>ロールも成功」
サダフレモ「とすると、私が追いかけていった時には、既に出口のあたりは<闇夜>で覆われているわけですね」
セトー「よし、ここはチャンスだ。GM、ロールプレイしていい?」
GM「ええ。フリーアクション扱いでOKですよ」
セトー「叫びます。『サダフレモ、逃げろ!』」
サダフレモ「えっ!?(動揺している)」
セトー「もう一度。『サダフレモ、逃げろ!』」
サダフレモ「(戸惑っている)」
GM「『静かなる男』たちは、闇雲に突っ込んでも仕方がないと考えたのか、コーラン・タルの到着を待っているようです」
セトー「だがサラマンダーはその限りではなさそうだな。やるべきことはやった。サダフレモを待ってはいられない。脱出しよう。でも<ラック>は60しかないんだよな。(ころころ)失敗だ!」
警備兵「曲者だーっ!!!」
セトー「脱兎のごとく逃走します」
GM「で、サダフレモは結局どうするの?」
サダフレモ「(決然と)私は協力すると約束した。その信念は揺らがない」
ナトゥリム&セトー「(爆笑)」
セトー「こいつなら早々とイモータルになれそうだ(笑)それより、エイワーは結局どうなってしまうんだ(笑)」
サダフレモ「あっ、そこに死体が(笑)」
エイワー「たぶん、デスナイトになって終盤出てきます(笑)」
■大逃亡!
GM「では、見つかってしまったセトーは続いて<潜伏>でロールして下さい」
セトー「40か。(気合を入れて)あたーっ! ほあーっ!(ころころ)72」
GM「残念でした」
セトー「(食い下がる)しかし、こいつは<隠密行動>も持っているぜ」
GM「では、そちらでも振ってください」
セトー「(ころころ)81で失敗。うわーっ! どこまでも追いかけてくるよ!」
GM「(ころころ)<締め付け>ロールに成功してしまったので、残念ながら、セトーは追いかけてきた警備兵の一人に羽交い絞めにされてしまいました」
セトー「必死で振りほどく!」
GM「それでは、STR(筋力)の対抗ロールをお願いします。セトーのSTRが14、こちらが13ですので、あなたが振りほどきに成功する確率は55%です」
セトー「(ころころ)95……(突っ伏す)」
GM「振りほどけません」
サイモーン「何とか助けられないものでしょうか」
GM「セトーがとっ捕まっていることには気が付いていいですよ」
ナトゥリム「しかし外は真夜中だ。今までのように<闇夜>で撹乱させることも難しいだろう」
セトー「羽交い絞めにされたまま、隠しナイフで切り付けたいんですが」
GM「(少し考え)それは<技工術>ですね」
セトー「基本値のままなので、05しかない、(ころころ)やはり失敗だ(肩を落とす)」
ナトゥリム「まずいな。ここは、<月光>の魔術でセトーを助けよう。警備兵の顔面に光の玉を出現させて動揺させましょう」
GM「それは可能です。まず、セトーまでも動揺してしまわないように、発射の合図をして下さい。これは、仲間内で通用する一種の符丁を示したということで、<交渉術>でロールで処理を行います」
ナトゥリム「50か。(ころころ)成功!(ガッツボーズ)」
GM「続いてセトーはそれを理解できるかどうか、<読心術>でロールして下さい」
セトー「45か、苦しいな。(念じてダイスを振る)やった、成功!」
GM「では、警備兵が驚いたかどうかを<ラック>ロールで判定しよう(ころころ)、ははは、成功してまんがな」
サイモーン「仕方ない。背に腹は換えられません。少々危険ですが、ヴェラル家に代々伝わる宝剣を抜き放ち、警備兵に切り付けましょう。おお、1発クリティカル!」
GM「締め付け状態なので<回避>は難しいだろうな。だが、警備兵は新王国式ハープレートを着ているのでした。(ころころ)しかし出目は1…3点しか防げない」
サイモーン「ダメージは15点!」
GM「さすがに12点も通ると警備兵は昏倒します。その隙にセトーは脱出できますよ。でもその前に、<回避>ロールでサイモーンの巻き添えをくらわなかったかどうかを判定して下さい」
セトー「これも基本値。32か。(ころころ)よっしゃ、成功! ノーダメージだな。サンクス、サイモーン。皆、人混みに紛れて逃げようぜ!」
GM「それでは、どなたか代表者の方、<隠密行動>でロールして下さい」
セトー「俺は80あるが、さっきからダイス目がカスなので、ナトゥリムが代わりに振ってくれ」
ナトゥリム「えいやっ!(ころころ)79、成功度1(笑)」
セトー「危なっ!(笑)」
GM「というわけで、皆様、辛くも逃げられました」
セトー「ナトゥリム、サイモーン、お前たちのおかげで命拾いした。この恩は何かの形で必ず返すよ」
ナトゥリム「礼ならエイワーに言って下さい。エイワー、いい奴だった」
GM「これからどうするんですか?」
セトー「『ヴェルヴェット・サークル』内で宿を取るのは危険だな。変装しよう。(ころころ)なんと<変装>ロールは06で成功! よかったー! ダイス目が戻ったよ(涙)」
ナトゥリム&サイモーン「(笑)」
セトー「さて、ここで行動を起こす前に情報を交換しておこう。あのな、俺はさっきコーラン・タルと話していたときに天啓が降りたんだ。俺は基本的に<法>の倫理に従って行動をしていた。密偵まがいの仕事や乞食に身を窶していたのも、すべては<法>のため。だから話していてわかったんだが、コーラン・タルは<混沌>の化身だ」
ナトゥリム「(畏まって)セトーも感知していたのか。実は私もなんだ」
セトー「(驚愕する)なにぃーっ!!」
一同「(爆笑)」
ナトゥリム「ヤツと話しながら、不意にその瞳を覗いてしまった。そこには<混沌>が宿っていた。確かに、そう感じられたのだ。どうやら、コーラン・タルが仕えていたのは、<法>や<混沌>を超越した存在なぞではなく、<混沌>そのものだったようだ」
セトー「さて、どうしたものか。我々3人だけでは、対処するのは難しそうだ」
ナトゥリム「かといって日常生活に戻るのも困難だろう」
セトー「では、<法>の衛士たちを動かすのはどうだろうか。<イルマー>の街にある<法の執行人>の詰め所に行くとしよう」
ナトゥリム「それがいい。セトーから話を通して貰えれば事がすんなりと進みそうだし」
セトー「では、個別撃破されないように、3人固まって<法の番人>の詰所へと向かおう!」
GM「一方の裏切者サダフレモは、どうしようか?」
サダフレモ「コーラン・タル様の仰せのままに従います」
コーラン・タル「よろしい。殊勝な心がけだ。それでは、そなたに予知夢を照射する能力を授けるので、新たな、<混沌>の神々のしもべとして働くべき者たちを探すのだ!」
サダフレモ「畏まりました」
コーラン・タル「(陶酔して)そうして、『メルニボネの金輪貨』を手に入れ、憎きエルリックめの野望を打ち砕くのだ!」
サダフレモ「(同調する)エルリックを殺しましょう!」
ナトゥリム「エルリックってそんなに恨みを買っているの?(笑)」
サイモーン「プレイヤー発言っぽいけど、買いまくりです。最後は結局、世界全体を滅ぼしてしまうことだし」
■神々の黄昏
GM「ということで(笑)場面を切り替えましょう」
法の執行人「どうしたのだセトー、いつも冷静沈着なお前がそんなに息を切らして」
セトー「実は、これこれこのような夢を見てだね、それで『ヴェルヴェット・サークル』内での『黒真珠』館というところに導かれて、そこでちょっとした依頼のようなものを受けるはずだったのだが、だんだん調子がおかしくなってきて、実はそこの依頼主が<混沌>のしもべだったことがわかったんだ!」
法の執行人「(驚愕する)こ、<混沌>のしもべ!」
セトー「<法>の理念を重んずる俺としては、もちろんそのような話には乗ることができない。だから依頼を蹴ったのだが、そうするとヤツが本性を現して、信徒とともに襲い掛かってきたんだ! 俺は仲間と共に命からがら逃げ出してきたんだが、仲間のうち一人は殺され、一人は捕まってしまった。このまま<混沌>のしもべたちを野放しにしてしまっては、<イルマー>の街に重大な危機が訪れてしまうことだろう。そこで、あなたたちの力を貸して欲しい、というわけだ。無論、必要な情報は全て渡す!」
GM「これは熱いな。説得力があったんで、ロールなしで説得成功ということにしましょう」
法の執行人「わかりました。(いきり立って)我ら<法の番人>は、あなたの言葉を信用し、すぐさま『ヴェルヴェット・サークル』に向かい、<混沌>の信徒どもに、正義の鉄槌を下しましょうぞ! KILL,CHAOS!!」
ナトゥリム「うははは(笑)」
セトー「『黒真珠』館にいる、ワイヴァーンの兜を被ったコーラン・タルと呼ばれる男。それが親玉だ!」
法の執行人「よし、それだけわかれば充分だ。行くぞ野郎ども!」
セトー「待ってくれ。俺たちの仲間のサダフレモという男が、コーラン・タルに囚われているはずだ。もしかすると意に添わぬ従属を強いられているやもしれぬ。彼を見つけたら助け出してもらえまいか」
法の執行人「あいわかった!」
一同「(爆笑)」
法の執行人「それと、状況をよく知っている者が必要だ。君たちもぜひ協力してくれ!」
セトー「もちろん。我々も可能な限り手助けしよう」
GM「よし、決まったね。ここでシーンチェンジだ」
コーラン・タル「(不意に)かような騒ぎとなってしまったからには、私はここで仕事を続けるわけにはいかぬ。よってサダフレモよ、ここで私の後釜に座ってはもらえまいか。さあ、この古代メルニボネで造られた、ワイヴァーンの兜を授けよう!」
一同「(大爆笑)」
サダフレモ「しかし、私も手持ちの精霊がノームだけでは心細く思います。何か精霊かデーモンを授けてはくれませんか」
コーラン・タル「それでは、このサラマンダーが封じられた指輪を授けよう!」
サダフレモ「ありがとうございます」
コーラン・タル「そして、もし私に連絡が必要な場合は、指輪に刻まれたコマンド・ワードを唱えればよい。それでは、さらば! 健闘を祈るぞ!」
GM「コーラン・タルは部屋の奥にある扉を開け、裏口より立ち去ります」
サダフレモ「ここにいる部下は私が使ってもよろしいのでしょうか?」
GM「うーん、どうしようかな。<言いくるめ>、<交渉術>、<雄弁>のどれかでロールをお願いします。残されたコーラン・タルの部下たちを説得するのさ」
サダフレモ「(ダイスロールをしようとする)」
GM「(遮って)判定だけに頼っててはダメですよ。説得のロールプレイを伴わないと、とてもじゃありませんが新しい主人としての承認は得られません」
サダフレモ「………。(しばらく黙っていたが、意を決して叫ぶ)聴きたまえ諸君、<混沌>の戦士たる私に付いて来い! エルリックに復讐をするのだ! 憎きエルリック! <混沌>の敵エルリックを、我らが手で打ち倒すのだ! そして手始めに、コーラン・タル様の命に従わなかったあの戦士たちを殺す!」
セトー「何ぃーっ!?」
サイモーン「うわっははは!!(大爆笑)」
GM「それでは、サダフレモは<混沌>以外で一番高い<アリージャンス>の値と<混沌>との差が20になるまで<混沌>の値を上昇させて下さい」
サダフレモ「おお、<混沌>が35になった」
GM「それでは、あなたの耳に<混沌>の神の声が聞こえてきます」
一同「(爆笑)」
GM「何がいいかなー(ルールブックをぱらぱらとめくる)。エルリックの背後についているアリオッチを倒せそうなヤツがいいな。そう、『剣の騎士』、『7つの暗黒界の王』、『上層地獄の王』、『2本の黒の剣の守護者』などと言われるアリオッチよりも強そうなの……。あった。アリオッチよりも悪いと評判の、『剣の王』マベロード! こいつが降臨します」
剣の王マベロード「(荘厳に)サダフレモ、我が僕よ……」
サダフレモ「主よ、偉大なるマベロードよ! 私はいま、生きる意味を悟りました。それは、あなたに仕えることです!」
剣の王マベロード「よく言った、我が愛しき奴隷よ、未来永劫、我に従うのだ……(消え去る)」
サダフレモ「はいっ! 何なりとお命じ下さい!」
GM「それでは、あなたの身体に<混沌>の特徴が生まれます。ルールブックの『デーモンの魔力一覧』から好きな魔力をGETして下さい」
一同「(爆笑)」
サダフレモ「では、火を吐く能力にします。それとも吸血がいいですか?」
セトー「俺に訊かれても知らんよ(笑)」
GM「よし、じゃあ火を吐く能力に決まりだな。それでは、サダフレモの身体には、<混沌>の刻印が刻まれます」
サダフレモ「大いなるマベロード、感謝いたします。(振り返る)それでは行くぞ、『静かなる男』どもよ! 神の命を受けた私に従うのだ!」
GM「それでは、<交渉術>にプラス50のボーナスを与えましょう」
サダフレモ「もちろん技能ロールは成功!」
「静かなる男」たち「(平伏する)ははーっ、仰せのままに致します」
GM「その頃、『黒真珠』館の周りが何やら騒がしくなっていますね」
法の執行人「出て来い、コーラン・タル! <法の執行人>だ! さあさあ、いざ、神妙になおれ!」
サダフレモ「何事だ!」
セトー「サダフレモ、いま助けるぞ!」
ナトゥリム「ヤツらの首謀者はワイヴァーンのヘルムを被り、恐ろしい怪物を召喚するほか、<混沌>の魔術を駆使する。気をつけられよ!」
サダフレモ「『静かなる男』たちを敵に向かわせ、援護として精霊を2匹召喚します」
GM「では、ノームとサラマンダーが呼び出されますね(ころころ)、ちなみに迎え撃つ<法の執行人>たちは2D10人います。(ころころ)8人しか出ない。いい勝負になりそうだ」
サダフレモ「こっちは火を吐けますし、警備兵が3人、『静かなる男』が2人、精霊が2体いますからね」
一同「(笑)」
ナトゥリム「(興奮して)うおおお、エイワーの弔い合戦だ!」
セトー「サダフレモ、助けに来たぞ!」
サダフレモ「サダフレモ……。いったい、それは何だ?(ぼんやりと呟く)」
GM「それでは、コーラン・タルの衣鉢を継いだサダフレモとその手下、そして<法の執行人>とパーティ3人との闘いの火蓋が切って落とされたわけですが……。
グダグダと戦闘を続けるよりもここで話を切ったほうが美しいと思うので、物語はここで幕を下ろすことにいたしましょう。
予想外の展開になってしまいましたが、ある意味非常に『ストームブリンガー』らしいと思う展開なので、私としてはこれはこれでいいと考えます。それでは今回のセッションはお仕舞いです。皆様お疲れ様でした!」
ナトゥリム「確かに、面白くはあった(笑) いやはや、お疲れです(笑)」
■コーラン・タルの企図は何だったのか?
セトー「面白かったけど、まさかこうなるとはなー。酷い展開だ、まったくもって酷いよ!(笑)」
ナトゥリム「当初のシナリオはどんな感じだったんですか?」
GM「もちろん、コーラン・タルの依頼を受けてクエストをこなすのだけど、シナリオを読み込むと依頼人の怪しさは意図して演出されているとしか思えないところが多々あるので、依頼人と戦いになるのも想定内の展開ではあったでしょう。例えば、先にコーラン・タルをやっつけておいて、彼が探していた宝がどのようなものであったのかを知る、といった広がりが考えられます」
セトー「ウソ、あんなのに勝てんの?」
GM「苦しい戦いになったでしょうが、パーティが防御デーモンを軽々と打ち倒した様子からすれば、充分可能だったとは思います。一応、こちらで敵のデータを調整してあったので。また、敵にはそれぞれ得手不得手がありました。例えば、『静かなる男』たちは、攻撃力は高くとも鎧が薄く、非常に打たれ弱いのです。
一方のコーラン・タルは呪文詠唱に気を取られ無防備だった。ちょっとやそっとのダメージでは詠唱は中断しませんが、さすがに命を失ってしまえばデーモンを呼び出すことはできないでしょう。種明かしをすれば、彼は仰々しいワイヴァーンの兜を被っていましたが、本格的な鎧を着てはいなかったのです。
それと、サラマンダーは魔力を持った攻撃しか効果がないので呼び出されてしまえば大変だったでしょうが、武器強化の魔術を仕える人もいたし、また、サダフレモが持つ呪符に封印されていたノームもサラマンダーと同じくらい強力だったので、とりわけサダフレモが裏切らなかったのであれば、充分に勝機はあったと思われます」
セトー「なるほど。しっかし、怪しい内容の夢だったよなあ。あれ観るとどうしても依頼人を疑ってしまうよ。『悪魔のような笑い声』とかさ」
GM「あの夢にはクエスト攻略のヒントとして、依頼人の怪しさも織り込まれていたのですよ。コーラン・タルに加担することは、<混沌>の侵攻に加担することと本質的に同義ですから。まあしかし、それも悪くはない、と言ってしまえるのが『ストームブリンガー』というシステムの懐の深さとも言うべきところなのですが(笑)
おそらくシナリオ作成者は、キャラクターはそのあたりをキャラクターの立場としてシビアに考えるべきだ、とふんでいたのでしょう。つまり、ダーク・ファンタジーの世界では誰にしろ多かれ少なかれ後ろ暗いところを持っていて当たり前なので、味方に着くか着かないかの判断は、純粋に報酬という観点から見るか、断ったら怖そうなので『長いものには巻かれろ』かな、といった具合に、<法>だとか<天秤>だとか<混沌>だとかそういうイデオロギーを差し置いて判断が行われるべきだという考え方ですね。
今回のセッションでは、結果的にサダフレモ一人がコーラン・タル側に付くという形になってしまったのですが、彼が『エルリックに復讐する』という自らの信念に過度に固執することなく、こうしたある種『大人の』判断をパーティに迫る、といった方法を取ったりしたのであれば、話はもっと違った展開になっていたかもしれません。もっともっと搦め手から攻めることが可能だったはずなのですね。設定上でも実際のセッションの流れにおいても、サダフレモのような特異なキャラクターを受け入れるだけの寛容さがパーティにはあったのですから、サダフレモもパーティ側も、もう少し想像力を働かせて事態に対処すべきだったのではないか。私なんかはそう思ってしまいます。言うまでもなく、私は『ストームブリンガー』の世界観からすればサダフレモの行為は正当性を持ちうると考えておりますが、その方法をブラッシュアップすることはいくらでもできると思います。その意味で、今回のセッションに参加していただいた方々には、世界観の研究という意味で、是非『エルリック・サーガ』の原作に触れてみていただきたい。とりわけ『薔薇の復讐』という作品(旧版ではそのままのタイトルにて単体で刊行され、新版では『暁の女王マイシェラ』という文庫本に入っています)は、サダフレモ的な葛藤が話の中心になっておりますし、単なる怪物ではない魅力的な<混沌>の在り方というのも描かれていますので。
やや話がずれてきましたが、ついでにもう少し種明かしをしましょう。皆さんの夢に出てきた『黄金の八角形』というのは、『メルニボネの金輪貨』というアーティファクトのことで、メルニボネの皇帝が在位期間に1枚だけ作らせる特別な金貨を指します。コーラン・タルが探していた『メルニボネの金輪貨』には特殊な魔法がかけられており、エルリックの父親の父親のそのまた父親…の魂が封印されていたのです。コーラン・タルは、その力を利用して、エルリックを滅ぼそうとしたわけなのですね」
ナトゥリム「ほほう」
GM「もともとコーラン・タルは、エルリックによって引き起こされる<イルムイルの掠奪>を予知していました。<イルムイルの略奪>とは、原作『エルリック・サーガ』の一編、『夢見る都』という短編で語られるエピソードです。エルリックが不在の隙に、野心家である彼の従兄イイルクーンが、ルビーの玉座を強奪し、エルリックの婚約者であるサイモリルをもその手中に収めてしまう、という事態が発生します。そこでエルリックは、イイルクーンに奪われたサイモリルを取り返すために、諸国を遍歴し仲間を集め、祖国に対して大規模な攻撃を仕掛けます。この攻撃によって、1万年もの長き間続いたメルニボネの国は滅ぼされ、僅かに生き残ったメルニボネ人は傭兵として諸国を彷徨う羽目に陥ってしまいます。
こうした危機的事態の到来を<混沌>の神々による啓示を通して予知したコーラン・タルは、祖国メルニボネを滅亡から守るために、『メルニボネの金輪貨』を利用しようとしたわけです。特別な『メルニボネの金輪貨』がその力を発揮すれば、<新王国>と<混沌界>への連絡通路を開くことができます。そうなれば、いかにアリオッチに寵愛されているエルリックといえども、ひとたまりもないであろうと、コーラン・タルは考えたのです」
ナトゥリム「私の夢で語られた『真鍮の犬』とは?」
GM「これはクエストの後半、フェイケシュの街の先にある砂漠で出てくる筈だった盗賊団の首領の通り名を意味します。でもナトゥリムは技能ロールに失敗してしまったので、正体を知ることができなかった、というわけです」
セトー「ずいぶんと直接的だったんだな。じゃあ、俺の夢に出てきた『金属の板に押し潰される』というのはトラップか何かの存在を暗示していたわけか」
GM「ご明察。目的の書物の回りにしかけられていたブービートラップのことですね。このように、各人が観た夢の内容は、そのほとんどがクエストへのヒントとして機能するものとなっていたわけです。それでは種明かしはこれくらいに致しましょう。より細かな点は、後でリプレイを書こうと思っているので、そちらを参照して下さい。
それでは皆様、長時間に及ぶセッション、どうもお疲れ様でした」
一同「(拍手)」
■種明かし解説
ここでは、脚注という形で示してしまってはシナリオのネタばれとなってしまうであろう事柄を、無粋にも解説させていただきます。
1:シラーナは、通常の武器による攻撃が利かなくなるポーションを飲んでいるだけ。もしここでセトーの武器に魔法がかけられていたのであれば、普通に傷ついておりました。
2:キャンペーンシナリオとして『ヴェルヴェット・サークル』をプレイした場合、この一連のクエストを順番にプレイしていくことになっていました。が、本セッションは単発であったため、クエストのなかから結果的にPCの食い付きのよくなったものを強調し、伏線もその単一のクエスト内にて消化してしまおう、といった具合にマスタリングを考えていました。こうすることで、セッションの自由度を拡げたかったのです。
3:コーラン・タルが被っている兜は、デーモン・プレートアーマーの一部です。このことが明らかになれば、間違いなく<混沌>の信徒ということになってしまいます。もっとも、彼は鎧本体の部分を身につけておりません。鎧は、防御デーモンまたはエキゾティックな美女の姿をとって、彼に奉仕しているからです。なお、シナリオに記載されていた防御デーモンのデータは強力すぎたので、キャンペーン後半に登場するティーク・ティヴァのものと差し替えました。
メモには、「混沌の臭いがする」と書いてありました。
4:初めはPCに発破をかけるためだけに登場したギャグキャラだったサイモーンですが、「ヴェルヴェット・サークル」内にまで付いてくることが決定した際、こっそりGMの側で夢の内容を決めておいたのでした。
5:不死性の第一段階と称し、何か怪しげではなくそれでいて役立ちそうな、<混沌>の能力を授けるつもりでした。
[1] 『ストームブリンガー』では、通常の人間の場合、能力値は2D6+6で決定される。望むならば、決定後、POWを上昇させるために他の能力を下げることができる。
[2] 『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』では、PCの<人間性>が下がるとその容貌も怪物じみてくる。ちなみにこの形容は<人間性>が最低の場合のもの。
[3] 『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』に出てくる、怪物めいた容姿をしているヴァンパイアの氏族。諜報活動に秀でている。墓場や廃墟などに好んで住む。
[4] ちなみに原作においてこの島は、エルリックの手で滅ぼされている。
[5] 無駄に細かい設定をルールに従って決められるのは、海外RPGの大きな魅力。
[6] 各キャラクターは、性格や行動、経験などに応じ、<法>、<天秤>、<混沌>といった属性(アリージャンス)それぞれにいくらかポイントを割り振っている。もちろん、この値は随時変化する。一番高いポイントと低いポイントの差が20を越えると……。
[7] 傑作RPG『トンネルズ&トロールズ』で知られるフライング・バッファロー社の一員。あまり知られていないが、彼らは『ストームブリンガー』旧版の製作に深く関わっていた。
[8] この辺りの演出は、個人的に国産RPGの最高傑作だと思うシステム『深淵』の演出法を参考にしたりしてます。ちなみに導入は6パターン用意されており、そのなかからランダムに渡しています。
[9] 『ストームブリンガー』の基本判定は、行為に関連する技能に関してD100をロールし、技能値以下なら成功という単純なシステムである。基本的には技能値の5分の1以下を出したら、クリティカルとなる。
[10] キリスト教、とりわけカトリックの教義に顕著な「辺獄」。天国と地獄の中間にあり、洗礼を受けていない人たちが死後行くところとされる。海外RPGの多くが世界観に取り入れている。
[11] デーモンよりも精霊の方が遙かに御しやすい。また、デモノロジストは大抵<混沌>と深い関わりがあるかなりヤバい方々だったりする。普通<法>の街でこんなことを公言したら命はない。コラットは妙な客には慣れているのでそれなりに耐性はあるようだが、それでもデモノロジストと取引はしないだろう。
[12] 基本的にファンブルは99、100をロールしてしまったときとなっているが、技能値が100を越えると、100のみファンブルという具合に変わる。
[13] 20世紀初頭に実在した著名なオカルト集団。ロジカルな教義で知られる。教祖はアレイスター・クロウリー。『クトゥルフの呼び声』のサプリメントでは当該教団をモデルにしたシナリオがあったりする。ノーベル賞を受けた詩人ウィリアム・バトラー・イェイツも会員だった。
[14] セッション内でキャラクター設定を詰めていくことの、苦しさ・難しさが滲み出ている台詞である。
[15] エルリックの持つ魔剣ストームブリンガーは、データ的にも一国を滅ぼせるほど強い。
[16] 実際、『ヴェルヴェット・サークル』の一角は非常に詳細な設定がなされており、ただぶらつくだけでも1セッションまるまる場が持ちそうである。設定そのものも異国情緒溢れる魅力的なもので、このあたりのこだわりを楽しむことにこそ、海外RPGをプレイする醍醐味がある。
[17] ファミコンで出たSF風のゲーム。システム周りが最凶だと悪名高いクソゲー。
[18] 『ほしをみるひと』のパッケージイラストを描いてらっしゃるらしい。
[19] 国産ライトファンタジーの立役者的作品。だが、出てくるJBというゲーム好きのドラゴンは、ゲイリー・ガイギャックス(『D&D』のデザイナー)の著書を愛読するというヘヴィな方だった。
[20] そろそろお気付きでしょうが、基本的に彼女はセッション進行が停滞しがちな一行に「巻きを入れさせる」ためと、ややハードな雰囲気を(苦手な人もいるだろうということで)緩和させるために出したキャラだったりします。なので、多少の無理は勘弁して下さい。
[21] 念のために言っておきますが、これはオフィシャルな設定であります。
[22] このあたりもオフィシャルな設定に存在します。
[23] 種明かし解説1参照。
[24] 種明かし解説2参照。
[25] 種明かし解説3参照。
[26] 基本ルールブックでは<アリージャンス>チェックの存在は仄めかされていても、詳しいルール的規定は存在しない。このような曖昧な部分をどう味付けしてシナリオに活かすのかが、『ストームブリンガー』をはじめとした海外RPGを運用するちょっとしたコツである。
[27] 種明かし解説4参照。
[28] 種明かし解説5参照。
[29] 種明かし解説6参照。
[30] 武器技能が100%を越えると、一度に複数回の攻撃が可能になる。その際、攻撃者は回数に応じ、任意の技能ポイント(下限50)を割り振り、各々の命中判定をそのポイントで行う。
[31] この後の展開も含めたうえで、このエイワーのさりげなく殊勝な台詞には涙が止まらないのであった。
[32] いつの間にかギャグ体質になっていたようです。私、コンベンションでこの手の寒いギャグを飛ばして参加者の中学生にマジ切れされたことがあったりするのです。